2019 Fiscal Year Research-status Report
近代日本の植民地における商工業者ネットワークの歴史地理学的研究
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19K13449
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Research Institution | Bukkyo University |
Principal Investigator |
網島 聖 佛教大学, 歴史学部, 准教授 (70760130)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 産業化 / 産業地域 / 商工業者ネットワーク / 売薬 / 外地 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、近代日本における売薬業の展開を通じて、特にいわゆる外地への進出を重視して、産業化による経済空間の再編が具体的にどのように進んだのかを明らかにすることを目的としている。そのために、①日本国内(内地)における地場産業としての売薬業の発展とその外地(朝鮮半島と関東州)への進出を検証すること、また②外地の業者と内地の業者との結びつきを検討し、内地の医薬品産業集積地が外地を含めた医薬品業者ネットワーク上でノードとして果たした役割を検証することが具体的課題となる。 各課題に対する昨年度の実績は以下の通りである。 ①の課題については、明治前期における売薬業の任意団体である徳盛会の各地での結成と、売薬税廃税運動に対する大阪を中心とした全国ネットワークの形成について資料を収集するとともにデータベース化を進めた。さらに、2020年2月には新潟巻町をはじめとする具体的な売薬業産地での現地調査を敢行した。以上の内容は次年度以降、国内学会および国際学会で口頭発表するとともに、査読付き論文としての公刊を目指す。 ②の課題については明治期における売薬業者を含む医薬品業者の電信ネットワーク形成を検証し、当時の一般的な都市システムと比較することでその特徴を明らかにした。この内容については国際学術誌に査読付き論文として公刊した。また、昭和前期における売薬業者を中心とする医薬品業者の中国華北地方への進出について資料を収集・分析し、日中の薬事制度が売薬業者ネットワークの形成に与えた影響を解明した。以上の内容は国内学会(2019年人文地理学会大会)において口頭発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は外地を含めた近代日本のナショナルな空間における売薬・医薬品業者のネットワーク形成とそれが直面する諸制度の違いが参入障壁として与えた影響について予想を超えて解明が進んだ。その結果、明らかになった内容を国内学会での口頭発表および国際誌への査読付き論文の発表に結実させることができた。また、売薬業の産業地域形成とそこに見られる商工業者ネットワークの解明は、資料収集、現地調査が順調に進んでいる。ただし、調査の進展によって関東甲信越地方の売薬業ネットワークにはさらなる検証が必要なことも明らかとなった点には留意が必要である。 以上より、作業ごとに若干進度のばらつきはあるが、概ね当初計画通りの順調な進捗状況と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度はコロナウィルス感染症の拡大による影響を強く受けることが予想され、そのため計画を大幅に修正せざるを得ない状況にある。まず、8月に参加を予定していた国際学会(IGCイスタンブル大会)が延期となったため、国際学会への渡航費について令和3年度へ繰延せざるを得ない状況となった。また、昨年度に引き続き、国内および中国華北地方での売薬業産地の調査を予定していたが、実施の可能性は十分見通せない。状況の推移を注視しつつ、長距離移動を伴う予定を次年度に繰り延べるなどの措置を行い、今年度は資料の収集やすでに収集した内容のデータベス化作業を進めるとともに、それらの口頭発表、および論文執筆に重心を置いた作業にならざるを得ないと予想している。
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Causes of Carryover |
必要文献の価格が当初のものから変動したため、若干の次年度繰り越しが発生した。資料代として使用する予定である。
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