2019 Fiscal Year Research-status Report
An Anthropological Study of Religions and Mobilities: Transnational Muslim Networks in Contemporary China
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19K13454
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
奈良 雅史 国立民族学博物館, 超域フィールド科学研究部, 准教授 (10737000)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 宗教 / 移動 / イスラーム / 中国 / ムスリム / 回族 / モビリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、中国内陸部から中国沿岸部にアラビア語通訳として出稼ぎに行く回族と呼ばれるムスリム・マイノリティの動きに焦点を当て、中国政府による「一帯一路」構想の推進に伴う中国とイスラーム諸国との間での経済交流の促進が人々の移動の活発化をもたし、イスラーム復興を促進してきたプロセスを明らかにし、宗教とモビリティをめぐる理論的モデルを提示することである。 当該研究目的を達成するために、2019年度、報告者は中国浙江省義烏市においてフィールドワークを実施した。義烏市はイスラーム諸国からの商人と中国国内のムスリムの出稼ぎ労働者が多く集まる国際商業都市である。そこで報告者は多様な出自を持つムスリムたちからなるコミュニティのあり方を明らかにしようと試みてきた。 改革開放以降、義烏市には日用品の卸売市場が設けられるとともに、中国における主要な輸出基地のひとつとして位置づけられ、義烏市は多くの国や地域との交易を担う国際的な商業都市として発展してきた。そのなかでも特にアラブ諸国との取引が多く、アラブ人商人が義烏市の国際化に大きな役割を果たしてきた。こうした状況下、回族をはじめとする中国国内のイスラーム系少数民族もアラビア語通訳やハラール産業に商機を見出し、出稼ぎにやってくるようになった。先行研究では、その結果、義烏市にはイスラーム信仰を共有するトランスナショナルなムスリム・コミュニティが形成されてきたと論じられてきた。しかし、本研究で明らかになってきたのはこうした多様な出自を持つムスリムたちが宗教性を必ずしも共有しておらず、凝集性の高いコミュニティを形成しているわけではないということである。 当該年度は、こうした状況を踏まえ、必ずしも宗教性を共有しない多様なムスリムたちがいかなる関係性を築いてきたのかを検討してきた。その成果は、国内外の学会での口頭発表および共著などとして発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画は、おおむね順調に進展している。理由は以下である。第一に、中国浙江省義烏市におけるフィールドワークを実施し、調査地における人びとに調査の協力をいただくことができた。第二に、2019年度は、4つの国際学会に参加し、研究成果を英語および中国語で発表することができた。その意味で、当該年度は研究成果の国際化を図ることができたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度は、中国浙江省義烏市におけるムスリム・コミュニティに焦点を当てた調査研究を進めてきた。しかし、宗教と移動をめぐる諸問題を明らかにするうえで、ムスリム出稼ぎ労働者の出身地の社会状況および出稼ぎによる出身地への宗教的、経済的影響についても明らかにする必要がある。そのため、次年度以降は義烏市における出稼ぎ労働者の出身地における調査を実施する計画である。また、当該年度は、口頭発表を中心に研究成果を発表してきたため、来年度以降はその内容をブラッシュアップして論文など出版物として発表していく。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは、2020年2月、3月に予定していた中国におけるフィールドワークが新型コロナウイルスの影響により、実施できなくなったためである。当該予算は2020年度に当初予定していたフィールドワークを実施することで使用する。
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