2019 Fiscal Year Research-status Report
多文化国家オーストラリアの非白人系住民による新たな市民意識の形成に関する研究
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19K13460
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
栗田 梨津子 神奈川大学, 外国語学部, 助教 (10632672)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 非白人 / 先住民 / 難民 / 市民意識 / 多文化主義 / オーストラリア |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、第一に、1990年代以降に刊行された政府文書や新聞等におけるナショナリズム言説や市民権テストを参照しながら、理想的な市民像の内実とその変容について分析を行った。「望ましい」市民の基準は、英国人性や白人性を軸とするものから、西洋の普遍的価値観を重視するものへと変化しつつあったが、先住民や非英語系移民・難民などの非白人系住民は、そのような価値観を共有せず、社会的規範から逸脱した存在として一括されていることが明らかになった。第二に、「非白人性」の形成のプロセスについて、南オーストラリア州州立図書館の新聞記事データベースにより、2000年代後半以降、継続的に掲載されてきた先住民、アフリカ難民、ベトナム難民から成る「ギャング」に関する記事を中心に資料の収集を行った。また同時に、アデレード北部郊外の先住民、アフリカ難民、ベトナム難民のコミュニティと、これらの集団への支援やサービスを提供するコミュニティセンターや協会の関係者にインタビューを実施し、メディア表象が人々の市民意識に及ぼした影響に関する聞き取りを行った。その結果、一部の非白人系住民の間では、メディアによって構築された主流社会への脅威としての「非白人性」を再解釈し、独自の意味づけが行われていること、さらに独自に解釈された「非白人性」を基に緩やかな連帯意識が生じつつあることが確認された。その成果の一部は、コンタクト・ゾーンやThe International Journal of Community Diversity”において発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本務との兼ね合いにより、現地調査の期間を当初の予定よりも短縮せざるを得なかったため、州立図書館での資料収集に十分な時間をかけることはできなかったが、研究協力者から有益な資料を提供してもらい、情報の不足分を補うことができた。また、関係者への聞き取り調査については、次年度の研究計画の一部を前倒しで実施することができたため、概して計画通り進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究で明らかになった「非白人性」の内実を踏まえた上で、それが先住民、アフリカ難民、ベトナム難民によって日常生活の中でいかに経験され、彼らの帰属意識に影響を及ぼしているのかを分析する。具体的には、アデレード北部郊外に居住するこれらの集団のメンバーを対象に、近所や学校、職場、福祉事務所での白人や他集団との経験に関する聞き取り調査を行い、市民としての経験や意識と、社会的排除への個々の対応について明らかにする。さらに、シドニー西部郊外でも同様の聞き取り調査を行い、アデレードとの比較を通して市民としての経験と帰属意識の多様性について考察する。なお、研究成果は引き続き、国内外の学会や学術雑誌等を通して発表する予定である。
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Causes of Carryover |
2019年度に主に南オーストラリア州にて非白人系住民の市民意識に関する文献収集および聞き取り調査を行ったが、本務との兼ね合いにより、文献収集の期間を当初の予定より短縮せざるを得なかったため、未使用額が生じた。このため、今年度中に十分に実施できなかった現地での文献収集を次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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