2021 Fiscal Year Research-status Report
多文化国家オーストラリアの非白人系住民による新たな市民意識の形成に関する研究
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19K13460
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
栗田 梨津子 神奈川大学, 外国語学部, 准教授 (10632672)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | シティズンシップ / 先住民 / 非白人系難民 / 市民意識 / オーストラリア |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は令和2年度に引き続き、新自由主義時代における非白人系住民の市民としての経験を踏まえ、先住民、アフリカおよびベトナム系移民・難民の間で形成されつつある「第三の市民」意識の実態について、これまでの関係者への聞き取り調査で得られたデータおよび文献資料調査に基づいて分析を進めた。さらに、2020年にアメリカに端を発し、オーストラリアにも波及した人種差別抗議運動において、特に先住民とアフリカ難民の連帯がみられたことを受け、同運動に関する新聞記事やインターネット情報、さらに運動の主催者を中心にソーシャルメディアで形成された言説を参照し、運動を通して醸成された黒人性に基づく共通意識に関する考察を進めた。多文化主義下のアイデンティティ・ポリティクスにおいて先住民と難民は競合関係にあったが、植民地支配や日常的な人種差別の経験に根差す黒人性に依拠した市民意識がオンライン上で形成され、それがオフラインでの集団間の協働につながり、結果的に白人の権威への異議申し立てとして機能したことを明らかにした。一方で、現在、先住民と非白人移民・難民の通婚に加え、非白人系住民と白人貧困層の婚姻も一般的であるなかで、非白人性に依拠する市民意識が「混血」の人々の帰属意識とはなりえず、集団内部の分断をもたらす可能性もあることも指摘した。さらに、「第三の市民意識」が新自由主義政策の下で非白人系住民と同様に社会的規範から逸脱した存在として分類された白人貧困層をも包摂する可能性についても考察を進めた。これらの成果の一部は、論文に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルス感染症の影響が長期化するなか、昨年度に引き続きオーストラリアへの渡航が困難となったことにより、当初予定していた現地調査を断念せざるを得なかった。そのため、フィールドワークを通して既に得られたデータに加え、文献資料およびインターネット上で収集したデータの整理・分析を行うとともに、補足的に一部関係者へのオンラインによるインタビューを実施するにとどまった。これまでの研究成果を発表しつつあるが、現地での参与観察および聞き取り調査に基づく一次資料が不十分なため、非白人性に基づく市民意識に関する理論の構築にまでは至っていない。そのため、総合的にやや遅れていると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
補助事業期間延長申請をし、認められた。令和4年度は新型コロナウィルスの感染状況が悪化しない限り、現地調査を実施できる可能性が高いため、現地調査を行いながら論文執筆を進め、研究の総括を行う予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの感染状況に大幅な改善が見られず、今年度計画していたオーストラリアでの現地調査が実施できなかったため。次年度は、コロナウィルスをめぐる状況が許せば、主にオーストラリアでの現地調査のための調査費や渡航費に使用する。渡航が困難な場合は、文献史資料の購入および海外の学会や学術雑誌での研究成果発表のための英文校正費用等に使用する予定である。
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