2019 Fiscal Year Research-status Report
葬儀の変化メカニズムに関する人類学的研究 :現代韓国の葬儀革新・保存運動を中心に
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19K13477
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Research Institution | Research Institute for Humanity and Nature |
Principal Investigator |
金 セッピョル 総合地球環境学研究所, 研究基盤国際センター, 特任助教 (00791310)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 韓国 / 葬儀 / 喪輿 / 伝統 / 近代化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は夏から秋にかけて、韓国の慶尚北道地域でフィールドワークを行なった。まず、喪輿保存運動団体における調査においては、運動の狙いや成り立ちに関する聞き取り調査及び、一次文献の収集を行なった。狙いは、喪輿や喪輿を保管する小屋を有形文化財に、かつての葬儀習俗を無形文化財に指定し、現代の葬儀では失われたとされる共同性や「生命尊重思想」を回復しようというものであり、韓国の伝統文化保全に主眼を置いている(実際に喪輿を使うことを主な目的としてはいない)。彼らは国学研究所として出発したが、K村で廃棄処分の危機におかれた喪輿と喪輿小屋を入手したことをきっかけに、喪輿保存運動を展開することになる。喪輿と喪輿小屋は、彼らにとっては韓国の近現代史の紆余曲折の中で失われた「民族の精神」を象徴するものとして再発見されていると推測される。 また、K村の喪輿がどのような道を辿って廃棄されるに至ったかに関して、K村で聞き取り調査を行なった。K村が属する永川市は、かつて商業と交通の要所として発達した地域であった。しかし他地域に比べて植民地時代の疲弊状況が深刻であり、朝鮮戦争時の戦争被害も大きかったこと、戦後もほとんどの場所が軍事保護地域に指定され開発ができなかったことから、慶尚北道の中では最も人口減少が激しい地域となった。K村は1970年代の産業化までは麻の栽培や加工、商業で栄えていたが、道庁所在地の大邱で紡績産業が発達すると活気を失い、住民の多くが近隣の工業都市に流出した。さらに、K里は共産主義の影響力が強かったという。左右の理念対立と戦中・戦後の混乱のなか「伝統文化の守護者」である有力な両班出自の構成員が殺されたり、村を立ち去った。単なる都市化による人口減少だけでなく、こういった近現代史を背景に、喪輿に代表される伝統的な葬儀文化が廃れていったと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度のフィールドワークにおいては、葬儀の変化を、単なる都市化による人口減少だけでなく、韓国の近現代史の中に位置付けられる緒を見つけることができた。これによって今後の具体的な研究方向が見えてきたと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの調査で、都市化や高齢化という要因だけでは説明できない、より大きな社会歴史的な文脈に韓国の葬儀の変化を位置付けられる可能性が見えてきた。そのため、2019年度後半から2020年度にかけては、喪輿保存運動団体に関する聞き取り調査の継続や、K村の村落調査を予定していた。しかし新型コロナウィルス感染症の拡散防止や日本政府の「水際政策」で、調査ところか出国すらできない状況が続いている。このような状況が長期化する可能性を見込んで、今年度は主に収集した一次資料の分析や論文作成に当たる予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の影響で渡航ができなくなったため。
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