2021 Fiscal Year Research-status Report
高齢期の雇用・所得保障政策と法的課題-日韓比較法研究
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19K13480
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
朴 孝淑 神奈川大学, 法学部, 准教授 (70602952)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 高年齢者雇用政策 / 韓国の雇用保険制度 / 雇用確保措置 / 就業確保措置 / 高齢期の社会保障政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,日本と韓国における高齢期の雇用政策,所得保障政策の全体像を描写することにある。本研究目的を達成するために,まず,両国の高齢期の雇用政策と所得保障政策が歩んできた道程を確認すること,また,両国の高齢期の雇用政策と所得保障政策を詳細に解説し,これらの政策を展開していくなかで生じる諸法的課題を学説と判例を検討・分析して明らかにする必要がある。 令和3年には,上記のような研究目的を達成するために,韓国の雇用保険制度を中心に検討を行った。コロナ禍の中,韓国政府は労務提供が不能となった労働者に対して雇用維持支援金等の経済的補償措置を行ったが,65歳以後に採用された高年齢者等に対する経済的補償は十分とはいえなかった。特に,65歳以後に採用された高年齢者は依然として雇用保険の適用除外となっており,高齢期の労働者に対するセーフティーネットの再編を広い視野から捉えて検討する必要があった。そこで,リサーチセンター研究会(公益財団法人労働問題リサーチセンター)では,「韓国の雇用保険制度について-新型コロナウイルス(COVID-19),社会保障制度の死角地帯を中心に」(2021年6月)というタイトルで上記の問題について検討・報告し,報告書を提出した。 一方,日本は2020年3月に高年齢者雇用安定法の一部を改正する法律案が可決・成立し,70歳までの就業機会の確保のため,現行の雇用確保措置に加え,新たな措置として就業確保措置を講ずることを事業主の努力義務とする法改正が行われた。そこで,改正に至るまでの日本の高齢者雇用政策の流れを概観したうえ,改正法の主な内容を整理・解釈し,改正の意義と今後の課題について検討を行った。研究結果については令和4年3月に上記のリサーチセンター研究会で報告し,議論をを行った。報告内容をまとめた報告書は,令和4年6月頃に刊行予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の目的を達成するための現在までの進捗状況は以下の通りである。 まず,韓国の高年齢者雇用政策と所得保障政策の動向を明らかにするために,関連する基礎文献および裁判例の収集・分析を行い,その研究成果をリサーチセンター研究会(公益財団法人労働問題リサーチセンター)で報告し,報告書を提出した。上記の「研究実績の概要」で挙げた報告・報告書のほかにも,韓国における高齢期の所得保障政策を検討を行い,「(超)高齢社会の到来と高齢期の所得保障政策-韓国の公的年金制度を中心に」というタイトルで報告し,報告書を提出した(2020年5月刊行)。 一方,日本は,定年退職後から65歳までの再雇用(継続雇用)制度の適用に伴い,賃金等の労働条件が低下する問題が生じている。そこで,日本の高年齢者雇用確保措置について検討を行い,その成果を日本労働研究雑誌(2020年,査読あり)に掲載することができた(本科研の研究成果の一部である)。 その他にも,2019年度より東アジア社会保障法フォーラムに通訳および訳者として参加し,本研究課題とも関連のある「韓国における社会保障に関する憲法裁判」,「韓国の老人長期療養保険法の現状と課題」などのテーマについて,日・韓・中・台の研究者らと意見交換を行った。フォーラムで得た知見は本研究の土台になっている。 また,高齢化は経済活動を支える労働力人口の減少とともに労働力人口の高齢化という新たな社会問題を提起している。そこで,日韓の少子高齢化と外国人労働者受入れの現状と展望について検討を行い,勤め先のアジア研究センターで口頭発表を行った。 以上のように本科研の研究は順調に進んでいる。ただ,新型コロナウイルス感染拡大防止の対策のため,当初予定していた海外訪問調査を実施することができず,韓国を含む海外の専門家に対するインタビュー調査の実施は見送りになっている。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度には今までの研究結果を取りまとめ,研究会等での発表,報告書や雑誌等に掲載する予定である。また,コロナ禍などの理由により研究が進んでいない欧米諸国の議論状況についても研究を進めていきたい。そのため,本年度は,本科研の研究課題の提出当時に予定していた現地訪問調査をも行う予定である。諸外国の研究者からのフィードバックや意見交換は,本研究に有益な示唆を与えてくれると思われる。本年度には,現地訪問調査研究で諸外国の研究者と有益な意見交換(インタビュー調査を含む)を行うことを期待している。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては,コロナ禍に伴い,当初予定していた海外訪問調査を行うことができなかったためである。 令和4年度は,当初の研究計画通りに海外訪問調査を行う予定であり,次年度使用額は航空券や宿泊費,現地資料の購入と複写,インタビュー調査のための謝礼等で使用する予定である。
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Research Products
(2 results)