2019 Fiscal Year Research-status Report
法に基づく裁判の成立条件の解明――自由法論とリアリズム法学を素材として
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19K13483
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
菊池 亨輔 広島大学, 法務研究科, 講師 (70835074)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 自由法論 / 法的構成 / 隠れた社会学 / 一般条項 / 感情法学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、主として20世紀初頭のドイツ自由法論につき、前後の時代も視野に入れつつ資料の収集・分析と理論の整理・検討を進めた。自由法論が改革を試みた対象は、①司法、②法学教育ならびに③法律学および裁判の方法など多岐にわたることを確認しつつ、研究目的との関連の深さから、本年度は特に③に重点を置いて、フックスの自由法論および法的構成の概念を基軸に研究に取り組んだ。 第一に、法実務家であり自由法論の最も過激な主張者フックスの議論の検討を通じて、自由法論は裁判が法規範(ドイツでは主に制定法)のみならず法規範外在的要素にも依拠することを直視するものの、法に基づく裁判を否定していない、ということを明らかにした。自由法論に対しては感情に裁判を委ねる感情法学であり、裁判の予測可能性を損なうとの批判がよく見られるが、それは一面的に過ぎ、むしろフックスの考えた自由法論の対極にあると評価できる。社会学・心理学の摂取により、裁判において不可避である社会生活に関する観察・洞察の精度を高め、裁判の予測可能性を向上させるという自由法論の基本思想を発見することができた。 第二に、法的構成の概念である。自由法論は19世紀後半のドイツを席巻した概念法学を克服しようとする試みであり、特に批判の対象としたのが法的構成であることから、20世紀前半および19世紀後半の文献の探索・精査によって、多義的な同概念の変遷過程を踏まえた理論的分析を行った。これにより、裁判で不可避な社会的事情の考慮を形式的・概念的な操作の背後に隠蔽する法的構成のように「隠れた社会学」に逃避するのではなく、堂々と社会学を行うべしと説いた点に自由法論の新規性があることを示した。自由法論の先駆者に数えられるイェーリングへの評価を揺るがす点でも興味深い成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究全体の基礎をなす自由法論の法的思考法につき特徴の抽出と分析を行うことが初年度の計画であった。本年度はその成果を研究会および学会で報告することで、参加者からも有益な知見を得ることができた。最新の研究成果にも目配りしつつ、公刊に向けた調査・検討を続けている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究二年目にあたる本年度も研究実施計画にのっとって研究を遂行する。その際、特に次の二点に力点を置く。 第一に、自由法論の裁判理解について、①一般条項の意義、②具体的事案への自由法論的方法の適用および③法規範の位置づけの変遷に留意しつつ分析をさらに深めていくとともに、その成果の公表を促進してゆく。多様な広がりを持つ自由法論の諸論点の中でも、上記の留意点は、裁判における法の拘束性を探究する本研究の目的に直結する。主流派の法学からの批判も含めた検討の深化を行う。 また第二に、大陸を跨いだ自由法論の伝播・拡張(リアリズム法学および日本での受容)にも目を向け、輸入国が自由法論を通じて、裁判における法の役割・意義の捉え方をいかに変容・発展させたかを論じる。これによって、法に基づく裁判の成立条件解明という本研究の目的達成に向け、より多角的かつ複層的な検討を進めることが可能となる。リアリズム法学のみならず日本における自由法論の受容を検討することは、日本での裁判も視野におさめた研究三年目の内容を一部先取りするものでもある。
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Causes of Carryover |
購入を予定していた図書の刊行が遅れ、別の研究資料の購入にあてたところ、差額が生じた。この差額は、図書の購入費に充当する。
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Research Products
(2 results)