2020 Fiscal Year Research-status Report
法に基づく裁判の成立条件の解明――自由法論とリアリズム法学を素材として
Project/Area Number |
19K13483
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
菊池 亨輔 広島大学, 人間社会科学研究科(法), 講師 (70835074)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 自由法論 / 隠れた社会学 / 感情法学 / 社会学的法学 / 法学教育 / 構成法学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、法源以外の要素が法的思考において作用することを直視したうえで、裁判が法に基づいていると評価できる条件を探るものである。 前年度に引き続き、2020年度もドイツ自由法論、特に最も包括的なかたちで自由法論を提示した論者エルンスト・フックスの理論につき精査を続けた。前年度は主として裁判方法の基本枠組みについて検討したことをうけ、本年度は裁判方法の革新を担う法律家養成の構想を切り口として、自由法論における法的思考の基礎と特質に迫った。 第一に、法学教育に関するフックスの理論を検討することにより、それが法律学の科学化をめざすものであることを明らかにした。フックスの理論は、法学の中心を文字や文献の世界ではなく、社会の実情や人間心理の探究へと移す試みであり、裁判における規範の定立と事実の認定をそれぞれ社会学と心理学に割り当てるとともに、旧来の法律学を脱却して社会学と心理学を法学教育の中心に据えるものである。だが、法律学を社会学と心理学に置換するフックスの構想と彼の「社会学」の概念は、必ずしもカントロヴィッツら他の自由法論者と共有されていない。このことを確認し、自由法論の多様性を改めて指摘した。 第二に、科学化の構想にもかかわらず、フックス自身の議論は基本的に社会学や心理学の論拠によっているわけではないという議論構造の捻じれを突き止めた。そのため、社会学や心理学への準拠が、自由法論の求める裁判においてどれほど徹底されているのかは、個々の裁判例に対して自由法論者が行った評価・批評を通じて明らかにする必要がある。その作業により、条文の意義をどの程度認めていたかについても、解明していくことができるとの見通しを得た。 以上の成果を論文として公表するとともに、より多角的かつ重層的な分析を行うべく、同時代の自由法論者および法学者の議論についても検討を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績に述べたように、一定の重要な成果は得られた。だが、自由法論における法感情と制定法の関係性について、さらには自由法論の他国への伝播等について、国内学会および国際学会での報告を期していたところ、新型コロナウィルス感染症の影響により、それらが翌年度以降へと延期された。これにより、研究成果につき他者からの批評を受け、意見交換をする機会が失われたことに加え、研究当初の計画で予定していた、ドイツにおける在外調査および研究者との意見交換も見送りとなった。そのため、研究環境の整備や資料分析に力を注いだものの、予定していたペースで研究を進めることに若干の支障が生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究をうけて、法学教育論を踏まえた上で、自由法論における裁判の見方と裁判における制定法の意義について論文として公表していく。 加えて、今後はリアリズム法学における法的思考とその思想的な源泉について、力を入れて検討を進める。関連する分野の研究者との交流および意見交換のネットワークを回復・構築することにより、研究進捗への支障は除去することができた。リアリズム法学については、ドイツ自由法論との関連という視角から先行業績を批判的に検討していくことになろう。とりわけ、①裁判における法源の役割、②社会学等の科学に対する態度、③感情・感覚の位置づけといった点を解明していく予定である。 以上についての検討結果を報告・公刊するとともに、法に基づく裁判について本研究全体をまとめた成果を公表するよう尽力する。
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Research Products
(1 results)