2021 Fiscal Year Research-status Report
教育における国家の中立性原理の政治哲学的基礎付けと憲法法理化に関する研究
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19K13490
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
中川 律 埼玉大学, 教育学部, 准教授 (60536928)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 国家の中立性 / 教師の教育の自由 / 市民教育 / 個人の尊厳 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、一つ目に、教育における国家の中立性の原理が政治哲学的に基礎付けられうるものなのか、基礎付けられうるとしたら、いかなる内容のものであると理解すべきなのか、二つ目に、中立性の原理の規範内容を十全に保障するためには、日本国憲法の解釈を通じてどのような憲法法理として具体化されるべきなのかを明らかにすることを目的にしたものである。 これらのうち、2021年度には、一つ目については、英米の現代政治哲学の文献を参照しながら、国家の中立性原理の政治哲学的基礎付に関わるものとして、特に個人の尊厳論の分析に重点を置いて研究を進めた。二つ目については、日本における憲法法理としての具体化の可能性を探るべく、公教育における市民教育の実施に関する日本の諸学説を整理・分析した。 一つ目に関しては、特にStephen Darwallの二人称的な立ち位置を中心に据えた個人の尊厳論を重点的に研究し、研究成果の一部を論考として発表することができた。二つ目に関して、特に、主権者教育権説と学習権説という従来の学説の対立軸の背後に、政治哲学的に対照的な考え方(市民的共和主義とリベラルな中立性)が控えている可能性を見出すことができること、さらに、そのような政治哲学的立場の相違が、市民教育の憲法的統制の必要性に関する問題意識を異ならせること、それが同じような憲法法理上の道具立てを用いたとしても、その具体的な有り様を大きく異ならせることなどを明らかにし、論考にまとめることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度には、本研究の上記の二つの柱のうち、一つ目のリベラルな国家の中立性に関連する政治哲学関連の資料の収集及び分析を前進させるつもりであったが、2020年度に引き続き、年度当初よりコロナウィルス感染症対策のためのオンライン授業の準備等の研究計画を立てた当初には想定しなかった事情により、研究時間を予定よりも確保できず、十分に進捗させることができなかった。 もっとも、二つ目の国家の中立性を具体化する日本国憲法の解釈を通じた憲法法理の探究に関しては、特に、公教育における市民教育の実施の憲法的統制という具体的な問題を素材に、研究成果を発表することができたため、全体としてはやや遅れているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、一つ目に、教育における国家の中立性の原理が政治哲学的に基礎付けられうるものなのか、基礎付けられうるとしたら、いかなる内容のものであると理解すべきなのか、二つ目に、中立性の原理の規範内容を十全に保障するためには、日本国憲法の解釈を通じてどのような憲法法理として具体化されるべきなのかを明らかにすることを目的にしたものである。 これらのうち、研究計画を立てた当初は一つ目の点を優先的に進めることを計画していたが、初年度である2019年度の研究遂行の過程で、二つ目の点に関しても並行的に研究を進めることが有効であると判明したため、2021年度に引き続き、2022年度も、一つ目と二つ目の柱に関して同時並行的に研究を推進することにする。 特に2022年度は、研究計画の最終年度の予定であるので、戦後教育改革から現在の新自由主義的な改革に至るまでの教育制度の変遷、それに対する憲法学及び教育法学の対応に関する通時的な分析を行い、国家の中立性原理が日本国憲法の解釈にどのような影響をこれまで与えてきたと言いうるのか、それを受けて今後にそれを憲法法理として具体化するにはどのようなあり方が考えうるのかについて検討し、一定の成果を発表できるようにしたい。 また、全体の中で、一つ目の点についての研究の進捗がやや遅れ気味なので、2022年には、この遅れを取り戻すことも目指すこととしたい。
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Causes of Carryover |
コロナウィルス感染症広がりの影響で、本年度に予定していた複数回の研究会参加、資料収集のための旅費を使用できなかったことに加えて、研究の初年度から累積的に全体として研究の進捗がやや遅れたために、物品費の残額も生じる結果となった。使用できなかった旅費については、感染症の広がりの状況次第であるが、状況が改善すれば、本年度に使用するようにしたい。また、本年度、十分に収集できなかった資料などの購入も次年度には進めるようにしたい。
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