2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K13496
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Research Institution | The University of Kitakyushu |
Principal Investigator |
堀澤 明生 北九州市立大学, 法学部, 准教授 (90647439)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ダブル・トラック / Rights of Action / Breach of Statutory Duty / Nuisance |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、英米法における制定法のエンフォースメント訴権に関して、行政主体と私人のそれぞれの訴権の導出手法や国制上の意義を検討する。それにより、日本法における公私による法執行制度の適切な配置への視座を得ることを目標とするものである。 2020年度は、主として二つのことを行った。一つは、アメリカについてはSean Farhangの業績を追うことで、アメリカ連邦制定法における私訴権の制定についての定量的な議論を知ることができた。そこでは、司法部門に対する議会の問題の先送りとして私訴権が制定されるのではなく、むしろ議会は自身の政策が私人によって――執政部門にかかわりなく――実現されることを望みながら、実体法も具体的にし、また執政部門の能力も調達しつつ制定するということが明らかにされていた。この点は、近年のアメリカ法において、黙示の私的訴権に対して裁判所が消極的な傾向にあることを裏付けるものと言える。すなわち、私的訴権を必要とする場合には議会は熟議する傾向にあるのであって、デフォルト・ルールとしては導出しないというのが連邦法における現状という議論をする方向をサポートするものと評価できる。 第二に、英国法については、K. M. Stantonの著書を精読し、Breach of Statutory Duty(BSD)として制定法違反の私人の訴権が独自のTortとして観念されていることが理解された。もともとは、労働安全衛生分野において、制定法上の義務が書かれている場合には訴権を導出するというアプローチであるとされていたが、分析アプローチに取って代わられている。このことはBSDの導出を極めて消極的にすることになった。 以上より、いずれの国においても、私人に制定法に黙示されたエンフォースメント訴権を導出する、ということについて消極的であることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
基本的には、制定法のエンフォースメントに関する私人の黙示の訴権の導出について、英米ともに近年消極的な傾向にあるということが明らかになったことは、一定の研究の進展であると思われる。 しかし、その後、個別の問題領域(たとえば、廃棄物処理施設)において、伝統的な私法上の救済に対する行政法規の意義や、行政訴訟との棲み分けがどうなっているのかをもう少し明らかにするべきであろう。この点について、やはり研究がある程度進んだ段階で渡英または渡米する予定であったのに、それが叶わない状況になってしまったことについてはかなりの痛手となった。
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Strategy for Future Research Activity |
一定の個別領域を定めて、制定法のエンフォースメント手段のベストミックスが英米それぞれでどのように実現されているかを、司法審査請求の排他性などを補助線としつつ検討し、本年度完成予定の原稿に結実させる予定である。また伝統的にnuisanceと観念されるべきであった行為に対する救済が変遷していっている領域として英国におけるanti-social behaviourへの救済があるため、こちらも余力があれば目を向けることとしたい。
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Causes of Carryover |
電子機器の購入を差し控えたことと、旅費が使用できなかったことにより次年度使用額を大きく生じさせてしまった。 今年は、より効率的に資料の整理を行うために周辺機器類を購入したり、各領域の書籍の購入を行ったりするつもりである。
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