2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K13497
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Research Institution | Ryutsu Keizai University |
Principal Investigator |
水林 翔 流通経済大学, 法学部, 准教授 (00826240)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 憲法 / フランス法 / 労働法 / フランス現代思想 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度はフランス法学の現代的展開について主として研究を進めた。 第一に、ミシェル・フーコーが提示した権力による「自律的な個人」の生成という問題系列が、憲法学が前提としてきた個人の自己決定といった議論が権力に馴致されたものに過ぎないのではないかという点についての研究を進めた。この点は、近年我が国においても、優生保護法に基づく強制不妊手術の被害者による訴訟提起によって憲法学が直面している問題とも通じる。すなわち、憲法学において、人権共有主体として「自律的個人」、「強い個人」を想定してきたが、それは一方で権力側に都合の良い主体形成と共犯関係にあったのではないかとの指摘が可能であるとともに、他方でそうした主体性を持ち得ない人々を人権保障から排除してきたのではないかとの疑念を抱かせるものであった。 第二に、上記の点と関連して、近年世界的に共通する問題となっている労働における雇用関係の解消と個人事業主化という点についても研究を進めた。こちらも、従来の従属性によって特徴付けられる労働者像から、自律的な労働者像への転換を主張するものであり、新自由主義的な市場経済中心主義を背景に、新たな搾取のあり方として問題となっている。こうした問題については、主にフランス労働法の泰斗であるアラン・シュピオの研究を参照したが、近年我が国の企業でも用いられつつあるため、我が国への示唆も大きい論点である。 これらの研究成果は2021年度に論文化する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2020年度の研究は、近代フランス法学の生成への研究成果を元に、近代法が現代法の中でどのように変遷・変質していったのかという点を跡づける一環として行った。また、そうした現代的な法の変質という観点から、改めて近代法の持つ意義とその限界を理解することができるため、当初の研究計画以上の成果へと今後つながるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度の研究方針としては、昨年度の研究成果を深めつつ、現代におけるフランス法の議論状況から日本法への示唆を得るように努めるとともに、フランス近代法から現代法にかけての通史的な法理論の変遷を改めて理論化することに努めたい。
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Causes of Carryover |
大きな差異ではないため21年度の研究の中で解消するものと考えている。
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