2019 Fiscal Year Research-status Report
ヨーロッパ地域における人権保障アプローチの多元化とネットワーク化
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19K13515
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Research Institution | Kinjo Gakuin University |
Principal Investigator |
竹内 徹 金城学院大学, 国際情報学部, 講師 (90823138)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ヨーロッパ人権条約 / ヨーロッパ評議会 / 実施機関の多元化 / 実施機関のネットワーク化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ヨーロッパ人権条約の実施において、ヨーロッパ評議会(およびEU)の複数の機関が緊密に連携し合うことで一種のネットワークを形成しているという仮説のもとに、各機関の活動内容・役割とその関係性を明らかにしようとするものである。昨年度は主として、こうした課題に関する一次資料(ヨーロッパ人権裁判所の判決や、関係機関が採択した文書・議事録など)の収集および分析に取り組んだ。2019年9月に実施したストラスブールでの調査も、その一環である。 そうした作業のなかで特に目をひいたのは、閣僚委員会が人権裁判所に対して行った判決不履行確認の申立に対して、人権裁判所が判決の不履行を認定する決定を2019年5月に下したことである。判決の執行監視は伝統的に閣僚委員会の任務であったが、2010年以降、これに人権裁判所を関与させる手続が導入されていた。閣僚委員会は、今回これを初めて利用した。そして、同委員会がこのように重い腰をあげた背景には、議員会議の働きかけがあったことを忘れてはならない。つまり、ここでは、人権裁判所、閣僚委員会、議員会議という三機関の連携によって条約の実施が確保されようとしているのである。今後の展開を注視する必要がある。 その一方で、既にこうした仕組みは限界を露呈しつつあるようにも見える。判決に従わない国に対して、人権裁判所が判決の不履行を認定するいわば第二の判決を下すことに、どれほどのインパクトがあるのかは疑問である。実際、人権裁判所は、上の決定において、締約国の不履行責任を認定しながらも、判決の執行を含む条約の実施は締約国の「良識」に依っている面があると述べている。 そうであれば、ヨーロッパ人権条約はこうした課題をどのように克服しようとしているのか。それを明らかにすることが2020年度以降の課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度は主に、一次資料の収集および分析に時間を費やした。ヨーロッパ評議会についていえば、採択された文書や議事録等のWEB上での公開が進んでいるため、その作業は主としてインターネットを通して行った。また、閲覧が困難な資料へのアクセスのため、および収集・分析の効率性という観点から、ストラスブールでの調査も実施した。 当初の計画では、こうした活動をヨーロッパ評議会およびEUの様々な機関について行い、2020年度以降は、収集した資料の精緻な分析を行う予定だった。ところが、これまでに資料収集の対象とすることができたのは、ヨーロッパ評議会のいくつかの機関に限られている。本研究課題のポイントの一つは、ヨーロッパ評議会とEUの様々な機関の活動の関係性・相互作用を明らかにすることであるため、今後、研究対象となる機関を広げていく必要がある。 また、一次資料の収集・分析と並行して関連文献のフォローも続ける計画だったが、前者の作業に多くの時間をとられたため、後者を十分に実施できたとは言い難い。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の調査から見えてきたのは、ヨーロッパ人権裁判所の活動だけではヨーロッパ人権条約の十分な実施を確保することは不可能であり、実際に他の機関との連携が行われているということである。今後は、そうした機関のより多くを、研究・分析の対象として取り込んでいくことが必要である。昨年度に十分なフォローができなかった機関を具体的に挙げると、ベニス委員会、ヨーロッパ評議会事務総長、同人権弁務官、EU基本権局などである。今後は、これらの機関を中心に調査を進め、各機関の活動の内容とともに、その相互の関係性にも着目していく。 この過程において、状況が許すのであれば、現地調査を実施する。ただし、この点については、代替手段として、インターネットを通した情報収集や、Eメールを通したアンケート・インタビューなどの、柔軟な対応も検討している。 そのほか、昨年度の反省を踏まえて、一次資料の収集・分析と関連文献のフォローを同時並行で進めることも、研究の充実および効率化にとって重要である。
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Causes of Carryover |
このように次年度使用額が生じた原因は、当初の計画で予定していた書籍などの物品の購入が2019年度はなかったことである。2019年度は一次資料の渉猟・分析に研究活動の大部分を充てたことがその主要因であるが、他方でこれは、関連文献や学界動向の把握が十分にできていないことを意味するため、好ましい状況とは言えない。また、研究の効率性という観点からも問題がある。 こうした反省を踏まえ、2020年度は、一次資料の渉猟・分析とともに、継続的に学界動向の把握を行い、本研究課題の位置付けの再確認に努めていく。それによって、本研究課題の意義を明確にし、より精緻な分析へと繋げていく。 そのために、関連文献や関連書籍をリストアップする作業を現在行なっている。次年度使用額は、こうした物品の入手・購入のための費用として使用する予定である。
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