2021 Fiscal Year Research-status Report
ヨーロッパ地域における人権保障アプローチの多元化とネットワーク化
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19K13515
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Research Institution | Kinjo Gakuin University |
Principal Investigator |
竹内 徹 金城学院大学, 国際情報学部, 講師 (90823138)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ヨーロッパ人権条約 / ヨーロッパ人権裁判所 / ヨーロッパ評議会閣僚委員会 / 共有された責任 / パイロット判決 / 判決不履行確認訴訟 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ヨーロッパ人権条約の実施においてヨーロッパ評議会およびEUの複数の機関が緊密に連携し合うことで一種のネットワークを形成しているという仮説のもとに、各機関の活動内容・役割とその関係性を明らかにしようとするものである。この課題に対して、2021年度は、ヨーロッパ人権条約の実施をめぐって近年しばしば言及される「共有された責任shared responsibility」概念に着目して研究を進めた。 「共有された責任」とは、ヨーロッパ人権条約の実施に関わる機関が互いに協力しながらその責任を果たすことで、同条約の効果的な実施を目指すものである。具体的には、ヨーロッパ人権裁判所、ヨーロッパ評議会閣僚委員会および締約国を相互補完的なものと捉えることで三者の協働関係を強調するものであり、その有用性に注目が集まっている。しかしながら、この概念は、三者の活動の相互浸透をもたらす可能性がある一方で、それゆえに三者の権限配分の従来の境界線を曖昧にするものであるため、実際にはむしろ境界線の明確化や権限の争奪戦といった現象を生じさせており、必ずしも条約の効果的実施につながるものではない。このことは、人権裁判所が判決の履行監視に関与するパイロット判決や判決不履行確認訴訟、締約国と閣僚委員会との関係の質的変化をもたらしうる判決履行監視手続の強化などに、すでに具体的現象としてあらわれている。 研究課題との関係でいえば、以上は、人権保障アプローチのネットワーク化および多元化の効果を消極的に解明し、その限界や課題を明らかにするものである。つまり、三者の活動の相互浸透は、制度化されたハードな仕組みによっては、現在のところ成功していないのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
依然として現地調査の実施が制約を受けるなか、2021年度は、限られた資料からでも現象を明確にとらえることのできる研究に専念した。その結果、人権保障アプローチのネットワーク化および多元化の仕組みや効果を消極的に解明することについては、一定の成果を挙げたと考える。 しかしながら、少なくとも研究課題が採択された当初の目的からすれば、消極的側面の検討・解明だけでは不十分である。人権保障アプローチのネットワーク化および多元化の仕組みや効果を積極的に解明する試みについては、そのための資料の収集・分析・考察を行なっている最中であり、研究課題の実施期間を一年間延長したのもそのためである。
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Strategy for Future Research Activity |
人権保障アプローチのネットワーク化および多元化をめぐり、2021年度の研究からは、少なくともヨーロッパ人権裁判所、ヨーロッパ評議会閣僚委員会および締約国といった三者の活動の相互浸透は、制度化されたハードな仕組みによっては成功していないことが明らかになった。他方で、この研究の過程で、実行を通して発展している制度化されていないソフトな仕組みが存在し、それが三者の活動の相互浸透をもたらす(あるいは現にもたらしている)可能性があることに気がついた。具体的には、判決やそれぞれの機関が作成する文書のなかで互いの活動を引用・参照し、その正統性や権威を高め合っているように見える現象が観察できる。2022年度は、こうしたソフトな仕組みに着目しながら、人権保障アプローチのネットワーク化および多元化の仕組みと効果を積極的に解明することを試みる。 また、多様なアクターの関与を認めることで正統性や権威を高めようとする試みは、ヨーロッパ人権条約制度の形成過程にも見られる。こうした条約制度の形成過程のネットワーク化および多元化という現象にも、2021年度に引き続いて注目していく。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた最大の原因は、現下の状況で、海外調査ができないことである。こうしたことから、初期計画で旅費に計上していた金額相当分については物品(書籍等)の購入費に充てたが、研究の進捗状況にも影響され、一部が未消化となった。 研究課題についても当初の目的を達成したとはいえない状況であるため、実施期間を一年間延長し、2022年度中の研究の完了を目指し、物品の購入等、必要な経費として使用する予定である。
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