2022 Fiscal Year Annual Research Report
ヨーロッパ地域における人権保障アプローチの多元化とネットワーク化
Project/Area Number |
19K13515
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Research Institution | Kinjo Gakuin University |
Principal Investigator |
竹内 徹 金城学院大学, 国際情報学部, 講師 (90823138)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ヨーロッパ人権条約 / ヨーロッパ人権裁判所 / ヨーロッパ評議会 / 共有された責任 / 判決不履行確認訴訟 / パイロット判決 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ヨーロッパ人権条約の実施においてヨーロッパ評議会およびEUの複数の機関が緊密に連携し合うことで一種のネットワークが形成されているという仮説のもとに、同条約の実効性を支える仕組みを明らかにしようとするものである。この課題に対して2022年度(最終年度)は、ヨーロッパ人権条約制度の形成過程における参加主体(アクター)の多様化あるいはネットワーク化という現象の分析を試みた。その背景には、国際的裁判所であるヨーロッパ人権裁判所の正統性に対する批判の高まりが一部の締約国で同裁判所の判決の履行を困難にしているという事情がある。調査の結果、条約制度の形成には多様なアクターがかかわっており、それらによってヨーロッパ・レベルでの政策・価値形成、職能的議論を可能にする専門知識や経験、さらには市民社会の活動や国際世論などが効果的に動員され、一種の公共空間が生じていることが明らかになった。これは、ヨーロッパ人権条約を「ヨーロッパ公序」と観念する立場を手続的側面から後押しするものであり、ヨーロッパ人権裁判所の正統性批判に対するひとつの回答を提供し得ると考える。 以上を踏まえて研究期間全体(2019年度から2022年度)の総括をすれば、ヨーロッパ地域における人権保障アプローチの多元化とネットワーク化は、実体的側面と手続的側面の両方において観察できる現象である。こうした人権保障アプローチの多元化とネットワーク化は、ヨーロッパ人権条約の実効性を支えるものであり、同条約制度が(専ら)司法的アプローチに依存しているとする従来の一般的な理解に修正を迫るものである。他方で、とりわけ「共有された責任」概念の普及と実践に見られるように、それが必ずしも条約の実効性の向上に結びつかない現象も生じており、内部に矛盾や課題を抱える条約の姿も明らかになった。
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