2021 Fiscal Year Research-status Report
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19K13516
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
中村 知里 関西大学, 法学部, 准教授 (30807475)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 人格権 / 準拠法 / EU |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度においては、主として不法行為の準拠法に関する検討を行い、その成果を公表した。とりわけ、人格権侵害の準拠法については、抵触規則の統一に向けた議論がなされているEUを主な分析対象として、インターネット上での侵害が広くなされている近時の状況を踏まえた検討を行っている。 この検討においては、EUにおける人格権侵害の国際裁判管轄に関する議論の進展により人格権侵害の準拠法に関する議論にも変化が生じていることや、各構成国の法的伝統の多様性が抵触規則にも反映されており、いかなる国に国際裁判管轄が認められるかが結論にも大きな影響を及ぼすことが明らかになった。 また、このような比較法上の分析を踏まえ、我が国における人格権侵害の準拠法についても検討を進めた。我が国の裁判所に国際裁判管轄が認められた場合には我が国の抵触規則に基づき準拠法が決定されるところ、とりわけ通則法22条(ダブルアクショナビリティルール)が存在することにより、我が国における表現の自由と人格権との間のバランスに関する価値判断が常に貫徹されることになる点は重要であると考えられる。このように、以上の準拠法選択に関する分析・検討は、国際裁判管轄が肯定されることの意義を広く把握する上で重要となる。 その他、広く研究会や学会に参加し、人格権侵害に関連する実質法上の議論や、ビジネスと人権にかかわる国際私法上の問題など、人権規範が国際裁判管轄に及ぼす影響に関連する分野の議論を広く収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前年度までの研究の遅れが引き続き影響しており、当初の計画よりも遅れが生じている。もっとも、人格権侵害の国際私法上の取扱いは、本研究において最も重要かつ基本となる論点であるため、これらの検討に当初の計画よりも時間をかけたことは、研究計画全体から見ても意義のあるものだったと考えている。また、抵触規則に関する検討も現在までに大幅に進めることができ、研究成果の公表も順調に行っているため、進捗の遅れは挽回できるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまでに行った研究を総括し、国際裁判管轄に関する人権規範の意義を包括的に検討することを目的とする。 第1に、人格権侵害について、準拠法選択に関する議論と国際裁判管轄に関する議論とを関連させつつ、表現の自由と人格権の抵触に関する価値判断が国際裁判管轄に及ぼす影響について分析を行う。 第2に、他の事件類型に関する論文や判例等の分析を広く行い、人格権侵害における議論から明らかになった国際裁判管轄における人権規範の意義について、より一般的な検討を行う。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の影響で学会・研究会がすべてオンライン開催となり、資料収集のための出張もなくなったことから、とりわけ旅費として予定していた額につき次年度使用額が生じた。 令和4年度も学会等が対面で開催されるかは不明であるが、仮に開催されればそれらの旅費に、開催されない場合には文献の収集のために使用することを計画している。
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