2022 Fiscal Year Research-status Report
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19K13516
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
中村 知里 関西大学, 法学部, 准教授 (30807475)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 国際裁判管轄 / 子の連れ去り / 発信者情報開示 / 外国判決の承認執行 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度は、準拠法選択や外国判決の承認執行についても幅広い検討を行い、これらとの関連性に留意しつつ、国際裁判管轄の意義について再考した。 また、従来は人格権侵害を主な検討対象としていたが、本年度はこれに限らない検討を行っている。主なものは、以下の2つである。 第1に、子の連れ去りとの関係で、子の監護に関する処分の審判事件の国際裁判管轄について検討した。子の連れ去りについてはハーグ条約が存在するが、締約国間での連れ去りでない場合など、なお従前と同様の問題状況が生じうる。連れ去り先を含め、子が現存する場所で審理を行うことは、子の生活状況等の把握や迅速な問題の解決という点において意義を有しうると指摘される一方、子の連れ去りを考慮することなく管轄を肯定することは、子の連れ去りを誘発すると批判される。子の常居所地国への迅速な返還がハーグ条約の目的の一つであり、子の人権の実現に役立つものと考えられていることを考慮しつつ、上述の双方の観点から、子の住所地管轄の解釈を検討する必要があろう。また、この解釈は、子が日本から連れ去られた際に、連れ去り先の国の判決を承認すべきか否かといった問題にも影響するため、外国判決の承認執行をも意識した検討が重要となる。 第2に、発信者情報開示請求訴訟の国際裁判管轄について検討した。発信者情報開示は、プロバイダ等の表現の自由や通信の秘密にかかわるものである一方、これが認められない場合、被害者は加害者を知ることができず、被害者の救済が困難になる。外国のプロバイダ等に対する訴訟においては民訴法3条の3第5号が主に問題となるが、プロバイダ等の日本との業務関連性に基づき管轄を認めることが困難な例もありうる。被害者の裁判を受ける権利を保障するという観点から、国際裁判管轄についてさらなる検討が必要である。 以上の検討の一部は、すでに判例評釈等において公表している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症の影響等により生じた前年度までの研究の遅れが引き続き影響し、当初の計画よりも遅れが生じている。具体的には、関連する個々の論点に関する検討は行っているものの、それらの包括的な検討がなおできておらず、また、研究を進めた結果として、個々の論点についてさらに検討を進めるべき点が生じている。以上の遅れを踏まえて、補助事業期間を延長し、承認を受けた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまでに行った研究を総括し、国際裁判管轄に関する人権規範の意義を包括的な検討を進める。 また、令和4年度にも検討を行った発信者情報開示請求の国際裁判管轄は、プロバイダ等の表現の自由や通信の秘密、被害者の裁判を受ける権利にかかわり、本研究課題における重要な問題であると考えているため、非訟手続について国際裁判管轄規定が新設されたことも踏まえて、さらなる検討を進めたいと考えている。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の影響で、令和4年度も多くの研究会がオンライン開催となり、旅費の支出が生じなかったことや、一部文献の入手が遅れたことにより、次年度使用額が生じた。補助事業期間の延長を行ったため、この助成金は令和5年度の研究に必要な文献やパソコン等の購入、研究会への参加旅費に使用することを予定している。
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