2020 Fiscal Year Research-status Report
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19K13518
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
新倉 圭一郎 東京都立大学, 法学政治学研究科, 准教授 (70803146)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 政府職員の事項的免除 / 国家免除 / 行為帰属 / 不干渉原則 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、政府職員が公的資格で行った行為を他国の刑事管轄権から免除させる、政府職員の刑事管轄権からの「事項的免除」に関する学説及びリーディング・ケースの分析を行い、その理論的根拠の特定を行った。政府職員が公的資格で行った行為がなぜ他国の刑事管轄権からの免除されるのか、という当該免除の理論的根拠については、国家の民事管轄権からの裁判権免除が適用されたものであるとの考え方と、政府職員が公的資格で行った行為は本国に帰属するため、そもそも当該行為について職員個人は刑事責任を負わないからであると説く理解があるが、それぞれ、リーディング・ケースで免除が認められる論理を内在的に分析するという手法ではなく、自己の理解に引き付けて実行の言説を把握するという形で実行を援用しており、議論がかみ合わない状況にあった。そこで本研究では、あくまでもリーディング・ケースで導出された免除の論理を内在的に分析することで実行がどのような理論的根拠をもって免除を導き出しているのかを分析した。 その結果、国家実行では、政府職員が公的資格で行った行為についてはその合法性の判断権や処罰権が本国に帰属するため、不干渉原則に基づいて他国の刑事管轄権行使が禁止されるとの理解から免除が導出されていることが明らかとなった。したがって、当該免除は、職員個人が刑事責任を負わないことによるという実体責任的な理解でも、国家の裁判権免除によるものでもなく、独自の理論的根拠に基礎づけられた固有の免除法理として理解すべきものであることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
政府職員の事項的免除は国際犯罪にも及ぶか否かを検討課題とする本研究は、大きく三つの段階での分析を予定している。第一は、ILCにおける本テーマの議論を包括的に分析し、当該免除の理論的根拠についてどのような議論が行われているのかを確認する作業、第二は、リーディング・ケースの分析を行い、国際慣習法上の当該事項的免除の理論的根拠を明らかにする作業、そして第三に、当該理論的根拠を踏まえて国際犯罪との関係を分析する作業である。今年度までに第二の作業を完了させており、おおむね当初の予定通りの進展具合である。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、政府職員の「事項的免除」の理論的根拠を踏まえて当該免除が国際犯罪に及が否かを検証する。当該免除と国際犯罪との関係については多様な理解が示されており、まずは先行研究の整理を行い、その問題点を明らかにした上で、実行の内在的な分析を行う。 なお、分析に当たっては、この分野で問題とされる「国際犯罪」概念の外縁を意識することを心掛ける。国際刑事裁判所で処罰されるいわゆる「コア・クライム」とテロ犯罪のような条約上の犯罪とでは免除との関係性を整理する視点が異なる可能性がある。また、この点とも関連するが、判決の論理が条約の解釈に留まるのか、一般国際法を想定したものであるかを意識することも重要となる。先行研究では、以上の区別が必ずしも行われないものもあり、議論の混乱を招かぬよう、慎重な分析を行うこととする。
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Causes of Carryover |
当初の予定では、他国への資料収集もしくは他国の研究者との研究会を想定していましたが、コロナウィルスの影響で行うことができなくなりました。そのため、若干の使用額の差額が生じました。
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