2022 Fiscal Year Research-status Report
国際通商協定における社会的価値の実効的な確保のための制度設計に関する研究
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19K13523
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
秋山 公平 早稲田大学, 法学学術院, その他(招聘研究員) (50801081)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 自由貿易協定(FTA) / 社会的価値 / 労働・環境条項 / 人権デューデリジェンス / 人権条項 / 紛争解決・履行確保 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度は、貿易自由化と「人権」との関係性について再考した。貿易自由化の推進過程で生ずる人権侵害の問題は、古くから認識されており、また、近年、企業に対し、人権に配慮した企業活動の実施及び報告を求める「人権デューディリジェンス」を要求する国内立法が相次ぐなど、両者の関係性に関する注目の度合いは日に日に増してきている。人権保護は、社会的価値の中でも中核的な地位を占めており、そうした人権保護と貿易自由化との間の関係性を明らかにすることは、貿易自由化と社会的価値との関係性を論ずる本研究課題に、理論的土台を提供する点で重要である。令和4年度の研究実績の内容は以下の通りである。 第一に、国際経済法において、社会的価値の考慮が求められる思想的背景について考察した。「自由」と対比される「社会的」価値の考慮を求める動きは、政治・経済・法思想のなかに連綿と存在し続けており、自由貿易協定を通じた社会的価値の考慮を求める動向も、こうした思想的背景を基礎としている。 第二に、世界貿易機関の紛争解決手続において人権の考慮を求める理論的検討も進展してきたが、現行ルールの解釈を通じた人権の考慮には限界がある。そうしたなか、国際経済法に積極的時人権を統合していこうとする理論的試みも提唱されてきたが、中央集権的な組織が存在しない国際社会において、人権の調整を担う機関を想定することに対する批判も根強い。 第三に、上記のように、既存の協定解釈や理論上の試みに限界がみられる中で、自由貿易協定において人権の考慮を求める「人権条項」を挿入する動きや、企業の国際的経済活動において人権への配慮を求める人権デューディリジェンスを「条約化」しようとする動きがある。前者についてはEUの協定で着実に発展してきており、後者については、先進国の関与は薄いものの、第3次ドラフトが出されるなど、一部の国における関心の高さを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究期間は延長したものの、令和4年度は、本研究課題に理論的基礎を提供する、貿易自由化と社会的価値の確保との関係性に関する思想的背景や、貿易と人権の確保との関係性に関する従来の研究と最新のルール形成の動向を整理できた。 自由貿易協定における労働・環境条項の最新の実施動向の把握、という研究課題については、依然として必要な作業が残っているものの、現在、公表に向けて原稿を準備している最中であり、現段階では、おおむね順調に進展していると評価できると考えている。 なお、上記、令和4年度の研究成果については、既に出版社に原稿を提出しており、現在校正中であるものの、近日中に公表される予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
労働・環境条項の最新動向として、1994年の「北米自由貿易協定」を刷新した「米国・カナダ・メキシコ協定」(いわゆるUSMCA)が含む労働・環境条項が、その内容として最も先進的であると評価されている。また、米国政府は、このUSMCAの労働・環境条項の実施に政策上の重きを置いている。 労働・環境条項の実施に関する最新の動向を評価するためには、それらUSMCAの労働・環境条項の実施に関する理論的評価が不可欠である。令和5年度は、これらの条項の実施が、労働・環境条項一般に、どのような政策上・理論上の含意を有しているかを検討することで、これまで本研究で実施してきた個別の論点を総合することを目指して研究に取り組んでいきたい。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、専門家との意見交換を目的とした研究出張を複数回想定していたが、コロナ禍の影響で思うように実施できなかった。令和5年度は、可能であれば専門家へのヒアリングを実施し、仮に残りの研究期間では不可能であっても、本研究課題の最新動向を把握するための追加資料の購入等、これまでの研究内容を相対的に評価し、最終成果物の公表のために必要となる研究費用に充てたいと考えている。
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