2021 Fiscal Year Research-status Report
De-(/Re-)construction of the Temple Structure of the Universal Declaration of Human Rights: From Hypothetical to Intersubjective Universality
Project/Area Number |
19K13525
|
Research Institution | Seinan Gakuin University |
Principal Investigator |
根岸 陽太 西南学院大学, 法学部, 准教授 (50815983)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 世界人権宣言 / 新型コロナウイルス感染症(COVID-19) / 出入国管理 / 国際人権理事会 / 国際人権法 / 脱学習 / 信念体系 / 現象学 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、昨年度までに構築した国際(人権)法の現象学的枠組を具体的な問題群に当てはめる業績を挙げた。 2020年から続く新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関しては、「人間的生」を全般的に問い直す現象学的枠組を通じて、国際人権法における生命権が、物理的な生命の喪失から、存在論的な人間的生のあり方へと転じていくべきだと論じた(「感染症対策の生政治(Bios)に抗する「尊厳ある生への権利」――免疫(Immunitas)から共同体(Communitas)へ」『国際人権』で公表済み)。 また出入国在留管理問題については、移民や難民に対して壁を構築するグローバルノース諸国の「信念体系」を暴露し、グローバルサウスの視点から移民や難民の人間的生それ自体から「脱学習」するための視点を示した(「マクリーン判例を支える信念体系――コロナ後の出入国在留制度に向けた脱学習」『エトランデュテ』から公表予定)。 普遍的な機関である国際人権理事会の機能については、特別手続が多様な方法を編み出してきたことで、世界生活での具体的な経験に根ざした実践知(フロネーシス)を体現していると論じた(「国連人権理事会の特別手続――生きられた経験を照らす至宝」国際人権法学会編『新国際人権法講座(国際人権法学会創立30周年記念企画):第4巻〔国際的メカニズム(申へボン編)〕から公表予定)。 日本国憲法との関係では、すべての実践のための地盤である生活世界に国際人権法/憲法の言説を復帰させるため、自律的個人を中心として体系を構築する主流の言説ではなく、そこから零れ落ちてきた他者を掬い上げる支流に光を当てた(「世界人権宣言と日本国憲法――『身近で小さな場所』から始まる人権と責任」江島晶子編『グローバルな立憲主義と憲法学(講座:立憲主義と憲法学 第6巻)』から公表予定)。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年目までに構築した国際(人権)法の現象学的枠組を様々な問題群に応用できたことで、3年目まで研究内容はおおむね順調に進展している。とくに喫緊の課題として社会的な要請が強いCOVID-19と出入国在留管理について応用できたことで、現象学的枠組の汎用性を証明することができた。また、普遍的なレベルでの国際人権理事会と、国内レベルでの日本国憲法との関連でも現象学的枠組を通じた分析を行うことで、その汎用性はさらに明らかとされている。これらの具体的な問題に当てはめて考察を繰り返すことで、抽象的な理論枠組の修正・改善にもつながっている。 その一方で、とくに喫緊の課題として社会的な要請が強い論点に集中したことで、より中長期的な問題への対応については必ずしも十分であるとはいえない。たとえば、気候変動(環境への権利)、持続可能な発展(発展への権利)、武力紛争の解決(平和への権利)など、世界人権宣言の最終三条が反映する「友愛」に関する問題群について正面から取り組む必要がある。これらの問題に取り組むために、補助事業期間の延長を申請した。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、上記のように未対応の論点として、気候変動(環境への権利)、持続可能な発展(発展への権利)、武力紛争の解決(平和への権利)など、世界人権宣言の最終三条が反映する「友愛」に関する問題群について扱う予定である。 すでに扱っている出入国在留管理については、雑誌Global Constitutionalism(ケンブリッジ出版社)が主催するシンポジウムGlobal Crisis and Global Constitutionalismに招聘されており、とくにグローバル立憲主義のなかで軽視されてきた経済移民の人間的生について現象学的枠組から捉え直す予定である(2022年7月21日)。 また、現象学的枠組を洗練させる試みとして、国際人権法のなかで理論的に考察されてこなかった間身体性(intercorporeality)の問題について、すでに行った国際人権法学会での報告(2021年11月20日)を踏まえて、学会誌『国際人権』に論文として公表する予定である。 さらに、3年目から分野横断的国際プロジェクト「Phenomenology of Law and Normativity」に参加しており、2022年の国際ワークショップ(6月30日)での報告を経て、2023年の出版を通じて本研究の現象学的枠組を英語にて発信する予定である。 最後に、本研究課題の業績を包括する書籍の出版に向けて研究を進めていく。
|
Causes of Carryover |
上記のように未対応の論点への対応、出入国在留管理や法現象学に関するワークショップでの報告・出版、本研究の業績を包括した書籍の出版などに向けて、必要な物品費(おもに書籍)、人件費・謝金(おもに英文校閲費)が必要となったため。
|