2019 Fiscal Year Research-status Report
治療と仕事の両立に向けた法理論―コミュニケーション促進規範に着目して
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19K13528
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
石崎 由希子 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 准教授 (50547817)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 病気休職・復職 / 試し出勤 / 障害者の雇用・就労 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は依然として増加傾向にある病気休職・復職に関する裁判例を総合的に検討し、その成果を論文の形で公表した。その際、復職可能性をめぐる主張立証の分配の在り方について検討し、使用者が労働者との対話を誠実に行ったか否か、医師等の専門家による診断を踏まえたか否かが重要な要素となることを指摘した。また、試し出勤(リハビリ勤務)の法的性質を労働契約とし、最低賃金法の適用を認めた高裁判決を批判的に検討するなかで、試し出勤開始時における労働者の同意の取得や医師の関与の重要性を再認識した。
この他、ドイツにおける障害者及び就労困難者に対する就労支援に関する法制度についても検討を行った。その結果、雇用率制度の対象となる重度障害者に悪性腫瘍等の術後2~5年の期間にある者が含まれること、認定を受けたがらない精神疾患者の包摂が政策課題となっていること、就労困難者を雇用する使用者に対する賃金補填手当の仕組みがあるが、特に個別支援の重要性が明らかになり、賃金補填手当支給期間中に支援を行う仕組みが設けられた他、困難性の認定を経ることなく、失業期間の長さを基準としてその対象を確定する制度が導入されたこと等が明らかとなっている。
さらに関連法領域として、労働安全衛生法や高齢者法領域の文献収集に努めた。いずれにおいても本研究において着目しているコミュニケーションの促進規範が認められるところであり、次年度以降更に検討を続けていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は国内法に関する資料収集や裁判例の整理を予定通り行うことができた他、ドイツ法に関する資料収集も一定程度進めることができた。また、論文及び判例評釈等において一定の研究成果を公表できた。研究対象が当初の予定よりも広がりを見せていることから、研究対象や方法についての整理を行う必要はあるものの、全体としてみれば、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は関連法領域のうち、高齢者法や労働安全衛生法領域におけるコミュニケーション促進規範について更に検討を進めることとする。このうち、高齢者法の検討については、当初の計画において主要な検討対象として想定していなかったが、傷病労働者や障害者に関する法領域と比較し、異同等を検討することで、研究目的に資する結果が導かれると思われるため、引き続き検討を進めていきたい。 また、コロナウイルスへの感染防止等の観点から広がりをみせたテレワークは、病気の治療との両立を容易にする働き方でもあり、こうした柔軟な働き方に関する検討を行うことを考えている。 なお、コロナウイルス感染拡大の影響により、2020年度に海外でのヒアリング調査等の実施できるかは不透明な状況にあるため、海外調査については、2021年度の実施も視野に入れつつ、現在できる研究を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
他の科研費(分担)が獲得できたことや今年度は学内研究費が一定程度交付されたことにより、本科研費で購入予定の資料やデータベース、人件費等を一定程度賄うことができた。海外調査に充てることを予定していたが、海外出張の実施が困難となる可能性もあるため、その場合には、諸外国の文献やデータベースの導入に利用することを検討している。
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Research Products
(4 results)