2020 Fiscal Year Research-status Report
刑事責任能力判断における理論と実践の架橋-歴史的・比較法的検討
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19K13534
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
佐野 文彦 法政大学, 法学部, 准教授 (20779516)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 責任能力 / 刑事責任論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、裁判員裁判導入に伴い、学説・実務において刑事責任能力をめぐり活発な議論が行われている現状に鑑み、刑事責任能力判断について理論的検討を行おうとするものである。具体的には、(a)我が国の判例学説史の研究により、我が国における責任能力判断をめぐる議論において前提となるべき情報を整理することと、(b)諸外国の学説及び判例実務の研究により、我が国の従前の比較法的議論を再検討するとともに、更なる理論的示唆を獲得することを目的としている。 2020年度においては、2019年度から引き続き(a)(b)の調査検討を進めるとともに、その成果を一部公表することができた。 まず(a)について、基本判例たる昭和6年判例の定式が、現在の通説的理解を背景として出されたものとは言えず、むしろ当時の学説の一般的理解と軌を一にするものであったこと、戦後、実践の大枠はかかる当時の理解と親和的なものであり続けたものであったのに対し、学説においては現在の通説的理解が徐々に通説化したことを明らかにし、現在の通説と実践を巡る問題状況についての背景事情を明らかにした。以上の成果等については、東京大学の紀要において公表した。 次に(b)について、従前参照されてきた独米の学説及び判例実務について、更なる検討を及ぼすことができた。まず、本研究においてとりわけ着目する諸障害等について、ドイツ判例の全体像を解き明かし、これを法政大学の紀要において公表した。次に、ドイツ刑法の定式における心理学的要素に関する沿革や、現在のドイツの学説の状況を見ても、我が国の現在の通説的理解について必ずしも積極的に支持すべき理由がないことを明らかにするとともに、これを東京大学の紀要において公表した。さらに、アメリカ法の判例学説の検討については、2021年度における検討を含め、2021年度に公表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の(a)については、近時の司法研究を含め、判例学説史の研究に関する成果を一定程度公表することができた。また上記の(b)についても、独米に関する成果を一定程度公表するとともに、2021年度における公表も予定している。その他の国の議論状況についても、責任能力の検討の前提となる議論枠組みについて、一定の調査を行うことができている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究年度3年度にあたる2021年度においては、これまでの調査検討から、我が国の議論状況に対する一定の提言を行うとともに、我が国の現在の裁判例等についても検討を及ぼすことを考えている。また、我が国においては必ずしも従前参照されてこなかった国について、一定程度まとまった知見を獲得することを目指す方針である。
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Causes of Carryover |
昨今の情勢に鑑み、現地調査等が実施できなかったため。次年度は引き続き調査検討を行うとともに、可能な範囲で現地調査を行うこととしたい。
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