2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19K13544
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
菊地 一樹 明治大学, 法務研究科, 専任講師 (70734705)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 被害者 / 自律 / 錯誤 / 欺罔 / 利益誘導 / ステルシング / 性的同意 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、法益主体(被害者)の自律が犯罪の成否に与える影響を明らかにするための各論的な研究として「錯誤・欺罔に基づく性的行為」の処罰の当否や限界を中心に検討を試みた。現在、性刑法については、不同意性交等罪の新設を含めたさらなる改正に向けた議論が進行中であることから、本研究では、既存の規定の単なる解釈論だけではなく、立法論も視野に入れて、欺罔に基づく性的行為の当罰性評価のあり方について、理論的な視座を析出することを試みた。 その手がかりとして、まず、虚偽の利益(例えば、モデルデビュー等)を約束して性的行為に応じさせるという「利益誘導型の欺罔」事案における性的行為の処罰の可能性と限界について、近年の裁判例をもとに理論的な検討を行い、とりわけ「利益誘導」という側面が、欺罔の当罰性評価にとりどのような意味を持ちうるかを明らかにした。 さらに、「ステルシング(Stealthing)」の当罰性・可罰性についても分析を加えた。ステルシングとは、性的パートナーに秘して避妊具を外し、性交を継続する行為を指す用語であり、海外では、被害者の性的尊厳や自律を脅かす行為として、その法的な対処のあり方が議論されている。我が国ではこれまでステルシングへの対処について十分な議論がなく、今後の改正で、不同意性交等罪のような規定が新設された場合に、ステルシング行為が包摂されるかどうかについても見通しが不透明である。他方で、2016年に「No means No」モデルに基づき、被害者の意思に反する性的侵襲を広く処罰の対象とするパラダイム転換を実現したドイツにおいても、ステルシング行為に可罰性が認められるかは議論が対立している。そこで、ドイツの判例・学説における議論を参照し、とりわけ近年支持を集めている可罰性肯定説の理論的な難点を炙り出すことで、我が国の議論にとっての示唆を得た。
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Research Products
(2 results)