2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K13549
|
Research Institution | Kobe Gakuin University |
Principal Investigator |
山下 裕樹 神戸学院大学, 法学部, 講師 (20817150)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 犯罪の終了時期 / 不作為犯 / 危険犯 / 抽象的危険犯 / 死体遺棄罪 / 継続犯 / 状態犯 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度も前年度に引き続いて、①我が国及びドイツにおける学説および判例を調査・分析した。また、②刑事訴訟法上の公訴時効制度の趣旨に関する判例よび学説を調査・分析した。 【①について】通説では、作為義務を履行しないことによる危険の除去の不存在が、不作為犯において犯罪の終了時期が到来しないことの理由だとされている。しかし、この通説に従う限り、公訴時効の実質的な撤廃は、刑法190条の死体遺棄罪に限られず、刑法217条以下の遺棄罪においても容認されてしまうことになる。すなわち、要扶助者を「遺棄」することも、究極的には保護責任者による「不保護」であると理解しうることに鑑みれば、検察官が「不保護」だと訴因設定してしまえば、遺棄罪においても公訴時効を実質的に撤廃しうることになる。「不作為とは期待された行為をしないこと」との定義に従う限り、作為犯の不作為犯への転嫁は容易に為されうる点に鑑みれば、通説に従う限り、他の犯罪類型においても、公訴時効が実質的に撤廃されることにつながるであろう。そうだとすれば、もはや通説は支持し得ない。 【②について】判例・通説によれば、公訴時効制度の趣旨は、時間の経過による証拠の散逸によって公正な裁判ができなくなることから公訴権を制限することである(訴訟法説)とか、一定期間訴追されていないことを尊重して、公訴権を制限することで被疑者・被告人になりうるという不安定な地位を解消し、個人の利益を尊重するためである(新訴訟法説)とされる。この趣旨からすれば、不作為犯においては犯罪の終了時期が存在せず、公訴時効が完成しないことになるとの結論は是認できないはずである。不作為犯であっても証拠の散逸は見られるはずであるし、不作為犯の行為者の利益も当然に尊重されなければならないからである。この点からしても、犯罪の終了時期に関する通説はもはや支持し得ないことになる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
学説状況の調査・分析に関して、2019年末からの新型コロナウイルス感染症による一連の影響により、当初予定していたドイツでのインタビュー等の研究調査・ドイツの研究者との意見交換および資料収集を遂行することができなくなってしまったため、ドイツの学説状況の調査・分析が、予定していたよりも 不十分となってしまっている。また、ドイツから書籍等を購入しても、新型コロナウイルス感染症の影響により、その到着が遅れてしまっており、当初予定していたような形での文献調査が遂行できていない。さらに、当該感染症への対応・対策の一環として、国内の大学や研究機関の図書館等の施設閉鎖および使用制限もあり、研究遂行中に追加で必要となった資料の収集が困難となってしまい、我が国の判例および学説の調査・分析も、予定よりも不十分とならざるをえなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
①作為犯と不作為犯とで共通して妥当する犯罪の終了時期に関する理論を提唱することを目的とする。通説には、危険が除去・解消されているかという事実に着目して犯罪の終了時期を画定しようとした点に問題がある。そうだとすれば、事実に着目する基準ではなく、規範的な基準を設けることが目指されるべきことになる。ただし、規範違反性に着目するとしても、いかなる時点において規範違反が完了したのかは明らかではなく、この点を我が国及びドイツの判例・学説を分析・調査することによって明らかにする。 ②規範違反性は保護法益とも関連すると思われる。そこで、死体遺棄罪の保護法益について、我が国およびドイツの判例・学説を調査・分析する。死体遺棄罪の保護法益を個人的法益のように捉える見解が存在することから、危険犯の犯罪の終了時期の明確化という観点も含め、宗教感情という社会的法益を死体遺棄罪の保護法益と考える通説的見解と比して、いずれの見解が優れているかを検討する。 なお、文献の調査・分析に係る資料収集に際しては、新型コロナウイルス感染症の影響が考えられる。日本で入手困難なドイツ語文献に関しては、当該感染症による一連の影響が落ち着いた時点で、ドイツへ現地調査することを考えている。また、ドイツの研究者との意見交換は、当該感染症の影響が続く場合には、オンライン会議システムを用いるなどして実施する。国内文献の収集に関しても、当該感染症対策として実施されているデータベースの無償提供等を利用しながら、可能な限り多くの文献を収集するよう努める。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の影響により、予定していたドイツでの現地調査を断念せざるをえなくなったため、また、購入した図書の到着が遅れているため、次年度使用額が生じた。令和三年度にドイツでの現地調査が可能となれば、その際の経費として使用する予定である。あるいは、新型コロナウイルスの影響が継続し、ドイツでの現地調査が困難な場合には、ドイツ語文献のデータベースの契約費用に当てることにする。
|
Research Products
(2 results)