2022 Fiscal Year Research-status Report
利益吐き出しの理論的根拠の再検討――一元論から多元論へ
Project/Area Number |
19K13552
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Research Institution | Otaru University of Commerce |
Principal Investigator |
橋本 伸 小樽商科大学, 商学部, 准教授 (20803703)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 利益吐き出し / 信認義務違反 / 知的所有権侵害 / 主観的要件 / 因果関係 / 利益の配分 / 手当 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、英米法における利益吐き出しの中心領域である①信認義務違反と知的所有権(②特許権、③著作権、④商標権、⑤意匠権、⑥営業秘密)侵害の場面における各利益吐き出しの要件・効果論について検討を加えた。その概要は以下の通り。
まず要件論として、ⅰ主観的要件(利益吐き出しが認められるには、受認者や侵害者が義務違反や侵害行為について悪意や故意があることが必要か)を検討した。上記領域の判例・学説は、利益吐き出しの根拠を抑止に求めることが多いが、抑止論を推し進めると、侵害行為を止めるには、侵害者の事前の認識が不可欠といえ、また他者の行為自由との関係からも、一定の歯止めが必要である。そのような役割として、―わが国の議論でもそうであるように―主観的要件が担っているといえる(④。⑥は直接的には要求していないものの、不正目的利用の認定の中で主観的要件が要求されている)。しかし、こうした直感に反して、英米ではそのような要件が要求されない場面が多数あることが注目される(①②③⑤)。もっとも、このような厳格な立場には批判もあり、肯定説は別途の正当化を試みるか、効果論で吐き出す利益の範囲を限定することにより対応する。
次に効果論(吐き出す「利益」の確定)として、ⅱ因果関係、ⅲ疎遠性、ⅳ費用の控除、ⅴ利益の配分、ⅵ時間・技能・能力を理由とする手当の付与について検討した。例えば、利益吐き出しを緩和するために、利益発生に他の原因が介入している場合には、ⅴやⅵの中で吐き出す利益の調整がなされている(①③⑥。ただし、エクイティの裁量が働くため、当然に認められるわけではない)。もっとも、こうした取扱いには利益吐き出しの抑止力を減退することになるとして批判もみられる。現にこうした調整をせずに厳格なルールのままとなっている領域もある(④⑤)が、権利者や本人への利益の帰属の正当化の困難性をもたらしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初は過年度までの利益吐き出しの理論的根拠の検討を踏まえ、①個々の領域毎に、英米の利益吐き出しの要件・効果についての再検討を行い、総まとめとして、②日本法への示唆を求め、成果を出すことを予定していたが、①に関する文献量が膨大なため、読み込みに時間がとられたため、②にまで手を回すことができなかった。また①についても、信認義務違反と知的所有権侵害の場面に限定することとなった。もっとも、①については、上記二つの場面は最も議論が豊富であり、検討素材としては適切であったこと、また議論の方向性を概ね掴むことができ、次年度に早期に成果として公表することができると考えられること、さらに、当初予定していなかった③個人情報漏えいによる利益吐き出しに関する研究を行うでき、成果につなげることができたこと(拙稿「アメリカにおける個人情報漏えいの被害者保護に関する新たな動き(1):原状回復法による保護をめぐる議論を中心に」商学討究74巻1号(2023)以下、全3回の連載を予定。なお、本研究と関わる利益吐き出しに関する部分は、「(2)」以下のものとなるため、次年度の報告書に記載することとし、今年度の成果では省略した)から、上記のように評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
成果の公表および日本法への示唆を求める考察が終わっていないため、再度延長性をして研究成果の早期公表を目指す。具体的には、以下の2点を中心に行う。
第1に、利益吐き出しの要件・効果論を英米法を素材に検討することである。従来の利益吐き出しの根拠論では抑止論が中心となり、そこからどのように個々の要件・効果が検討されている。しかし、利益吐き出しの根拠は抑止に限られるものではなく、他の根拠論に立った場合に、それらがどのように解釈されるかについて検討する。
第2に、第1の点を踏まえた、若干の日本法への示唆を求めた検討を行うこととしたい。もっとも、本研究が当初挙げたすべての項目(不動産・動産侵害、特許や著作権などの知的財産権侵害、人格権侵害、守秘義務違反、契約違反、信認義務違反など)を対象に検討することは時間的に厳しいことから、知的財産権(特に著作権)侵害と信認義務違反を中心に検討することを現在のところ予定している。もっとも、この点は、進捗により変わる可能性あり、形になるところを中心に行い、成果に結びつけることにしたい。
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Causes of Carryover |
概ね使用することができたが、端数として残額が残ったため。次年度早期に文具等に充当し効率的に使用したい。
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