2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K13560
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
佐藤 康紀 名古屋大学, 法学研究科, 准教授 (50756632)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 共有 / 使用 / 管理 / フランス法 / 不分割 / 組合 / 互有 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、第一に、本研究の序論を成す部分の具体的検討を行い、これを公表する作業に従事し、第二に、フランス法の検討に赴くための準備作業を行った。 第一の作業は、日本において一見安定した共通認識を形成しているかにみえる諸言説の中から、見えにくい対抗や齟齬を析出するという作業から出発した。その結果、まず、使用及び管理に関する規律が適用される「共有」として想定される局面が、学説と判例とで必ずしも一致していないことが明らかになった。また、使用に関する規律については、学説における定義のされ方(一共有者による独占はできない)と判例における適用のされ方(一共有者は全部占有できる)との間の緊張関係が、そして、管理に関する規律についても、学説による定義のされ方(有利的な行為;103条)と論点の現れ方(共有者の一人の占有を解けるか)との間の飛躍が、明らかになった。以上の問題に答えるためには、共同所有の規定を持たないフランスにおいて、なぜ「共有」が観念され、なぜ使用及び管理に関する規律を構想できたのか、という問いに向き合う必要がある、との課題設定を行った。 かくして、第二の作業は、共同所有についての一般法理が形成されたと評価し得る19世紀中葉のオブリ&ローの学説と、1976年の法律とを目印にして、そこまでにいかなる紆余曲折があったかを分析するという視覚から行われた。本年度は主として、ドマ及びポティエを中心とする古法学説の収集並びに分析に従事した。特にポティエには、共同相続、組合契約、相隣関係(互有)を「共同関係準契約」という概念で括り、使用及び管理に関する規律を構想するという重要な動機が見られた。但し、これを所有権の体系の下で観念することには留保が必要であるとの感触も得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究成果の公表は、申請時においては、本年度にはできない見込みであったが、本年度末に開始することができたので、この点は見込みを上回る進捗であったといえる。また、申請時に或る程度準備していたポティエのみならず、ドマについても分析の対象としえたのは、見込み通りの順調な進捗であった。もっとも、慣習法学者らの著作にまで検討が及ばず、先送りとせざるを得なかったのは悔やまれる。また、本年度末にはフランスにおいて文献収集を行う予定であったが、COVID-19感染拡大の影響で叶わなかったのも、想定外であった。かくして、総じて見ると「おおむね順調」な進捗と評価するのが相当である。
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Strategy for Future Research Activity |
フランス法部分の検討成果の公表作業に従事するのが、主たる課題である。順調にいけば、来年度中に認識の骨格を示すことができ、最終年度や次の課題に向けての準備を見据えた研究に進めると考えている。ただ、現地調達する予定であった仏語文献が、本年度中に調達できなかったことから、遺憾ながら断念せざるを得ない部分も出てくると思われる。 以上の骨格の公表作業と並行して、マンション法や夫婦財産制にも適宜検討の射程を拡げていく準備をしたい。
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Causes of Carryover |
第一に、次年度使用額のほとんどが「独立基盤形成支援」として3年分の追加交付を受けた分にかかるため、これを1年で消費することはありえない。引き続き交付の趣旨に従い計画的に支出する。第二に、旅費については、本年度末に渡仏の予定があったが、COVID-19感染拡大の影響で中止せざるを得なかったため、その分の支出がなくなったことによる。次年度に改めて機会を得ることを望むものの、見通しは不透明であると言わざるを得ない。
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