2019 Fiscal Year Research-status Report
農業者の組織維持メカニズム:1970~1990年代の農業協同組合と国際比較から
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19K13587
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
川口 航史 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 特任研究員 (20823404)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 日本政治 / 比較政治 / 利益団体 / 農業政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、兼業農家が増加し、全体としての農業人口が減少し、第一次産業の国内総生産に占める割合が小さくなり、日本農業の構造が大きく変化していった時期に焦点を当て、農協グループがどのように多様な農業者をまとめ上げ、非農業者に対して農業保護を正当化したのかを分析し、さらにアメリカ合衆国の農業団体の活動戦略と比較する。その結果、既存研究が前提としてきた農業者の強固な組織維持を可能にしたメカニズムや、相対的に経済力に乏しい人々の団体がどのようにして自らに有利な制度を獲得していくのか、そして他国の農業団体と農協グループとの共通性や、比較における位置づけが明らかにすることを目的としている。 以上の研究目的の下、本年度は比較の基礎となる日本の国内事例に集中し、農協グループがどのようにして多様な農業者をまとめたかを、米価決定過程における農協グループの活動から明らかにした。全国農業協同組合中央会の職員が寄稿した雑誌の記事や、農協グループの活動方針を記載した書籍などを渉猟した。それらの中から、その後の米価政策決定において、重要となる出来事が発生した時期に焦点を当て、政策決定過程に関与した政治的なアクターの行動原理を明らかにするように試みた。こうした分析から、農協グループが多様な構成員の利益の最大公約数として米価運動に比重を移していった過程を、その関係者の意図とともに明らかにした。また、農林官僚や農林族議員が残した文書や回顧録・追悼記念集を読み込み、農林官僚・農林族議員側からの視点から、農協グループの米価に対する活動の特徴を分析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、研究対象である必要な文書の渉猟が進み、それらを実際に読んで政策決定過程を分析することができた。その結果、1970年代の米価決定過程の流れについて、複層的な理解を得ることができた。また、研究の一部について、国際学会におけるペーパー報告の形で文書化してまとめることができた。また、その際に参考となるフィードバックも得られたため、その後の研究を進める上で、方針を立てることが容易になった。 また、雑誌記事のタイトルを網羅的にテキストデータとして収集することも試みた。結果として、分析に必要な程度にはデータベースが整備されていないこともわかり、目立った成果は上げられなかったものの、今後の研究方針を立てる上で必要な段階を踏むことができた。次年度以降は代替手段に関して、人の手に頼った作業を試みるかどうかを含めて検討する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度以降は、農協グループと非農業者の関係を分析し、さらに日本の事例を世界の国々の中に位置付けることを目指す。 ①1980年代の日米農業貿易交渉やGATTウルグアイ・ラウンドにおける農協グループの立場と、その背後にある論理を明らかにする。『日本農業新聞』『家の光』など、農協の関連団体の発行した日刊新聞や月刊誌における社説・解説記事を渉猟・分析し、農協グループの公式の立場がどのように変遷していったのかを明らかにすることで、農業保護を非農業者に向けてどのような論理で正当化していったのかを調査する。 ②アメリカ合衆国における農業者・牧場主団体であるAmerican Farm Bureau Federation (AFBF)の活動との比較を行い、日本の農協の特徴を明らかにする。これまでの筆者の研究により、AFBFは(1)非農業者に農業保護の正当性を理解してもらう活動をしていること、(2)政策目標の決定過程を重視し、組織維持の工夫をしていること、(3)農業者人口が減る中で、これまでは団体員として組織化できていなかった農場労働者や農村部の非農業者に組合員を増やす努力をしていること、の3点が明らかになった。これまでのネットワークを生かし、本部職員へのより本格的なインタビューや、州・郡レベルの組織への聞き取り調査を行いたい。さらに、アメリカ合衆国にある大学図書館のいくつかには、AFBF関連文書が設立当初から2000年前後のものまで数多く残されており、20世紀後半の、経済発展段階が日本と比較可能な時期のものに絞って読み込み、どのような組織維持のための運営を行っていたのか、どのようにして自分たちの活動を正当化していったのかを分析する。
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Causes of Carryover |
本年度は、当初の計画では資料の収集やインタビューに必要な撮影・録音機材の購入や謝金の支払いを予定していた。一部の資料に関しては、複写ではなく購入することで代替した。また、インタビューや資料収集の依頼など、他者と関わることが必要な研究に関しては、不特定多数の人々との接触が懸念されるような社会状況が年度末に発生したことも鑑みて、本年度は取りやめて次年度以降に行うこととした。このため、機材を購入することや謝金の支払いも見送ることとなったので、未使用額が発生した。本年度未使用額は次年度以降に使用する予定であるが、状況が変化しない場合には書籍の購入やハードウェアの購入に充てる予定である。
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