2020 Fiscal Year Research-status Report
17世紀イングランド、ドイツにおけるネーション概念
Project/Area Number |
19K13601
|
Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
小島 望 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 研究推進員 (10838171)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | ネイション概念 / ネイションの主権 / ナショナリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究実績は、次の二点に集約される。第一に、近代以前のネイション概念のナショナリズム起源論における位置づけの明確化、第二にネイション概念に備わる主権のあり方の解明である。 第一の課題は、これまでに入手しえなかった文献をも用いて、ナショナリズム起源論における近代以前のネイション概念に着目する際の手法とその意義を解明することにあった。このトピックについては、すでに論文として刊行しており、今後の研究の前提を提示することができた。 第二の課題は、ネイション概念に備わる主権の具体的あり方を明らかにすることにあった。具体的には、国際的なインパクトを備えた学術誌Nations and Nationalism誌に掲載された論文のうち、sovereigntyとsovereignという語を含む部分を抽出したコーパスを作成し、両者が用いられる文脈からネイション、ナショナリズムと関連する主権の具体的意味の追求を目指した。この結果、これまでの研究において前提されたネイションの主権=政治的正統性という図式とは異なり、ネイションを構成する人民による政治参加をネイションの主権とする見方がある程度存在することが明らかになった。このトピックについては、既に論文を執筆しており、現在投稿前の最終的チェック段階にある。 以上のように、本年度の研究は総じてネイション概念、ナショナリズムについての理論的側面の深化と結びつくこととなった。これらは、今後の本研究課題の遂行の前提を成すものであるといえよう。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の主たる課題は、17世紀イングランド、ドイツにおけるネイション概念とそれらを踏まえた言説の比較検討を通じて、国家形成に差異が見られたとされる両国におけるナショナルな言説の共通項と異同を解明することにある。だが、その前提として近代以前のネイション概念をナショナリズム起源論の議論全体に位置づけ、その意義を明確化する必要がある。また、ネイション概念の主権についての分析も、本研究の主たる課題を遂行する上で必須となる作業である。この両点を優先した結果、本年度の研究においては主たる課題については先行研究を調査するに留まらざるを得なかった。 こうした研究遂行上の優先順位を鑑みた研究の遂行に加えて、2020年度は新型感染症の流行と、研究代表者の転居という偶然が重なり、その結果、本研究を遂行する上で必要な、17世紀イングランド、ドイツにおける文献史料の蒐集を行うことができなかった点も勘案せねばなるまい。17世紀イングランド、ドイツにおけるネイションという語を含む史料の蒐集は本研究の主たる課題を遂行する上で必須となる、コーパスの作成のための最も重要な部分であるからである。 これら両点を原因として、本年度の研究においては本研究の要ともいうべき、17世紀イングランド、ドイツにおけるネイションという語を含む記述から成るコーパスを作成する作業に十分に従事することができなかったと言わざるを得ないのである。 上述のこうした研究遂行状況を鑑みて、現在までの進捗状況は「やや遅れている」とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策としては、何よりもコーパスの作成と分析が急がれるところである。より具体的には、本研究で取り上げる史料の選定とコーパス作成と、それを通じた17世紀イングランド、ドイツにおけるネイション概念のあり方の具体的解明である。 イングランドにおけるネイションという語を含むコーパスの作成については、当時の議会史料のうち、電子化されているものを抽出し、テキスト形式で保存することで作成可能である。その一方で、同時期のドイツにおけるネイションという語を含む史料については、未だ具体的対象とする史料を選定できていない状況にある。それゆえ、コーパスの作成に際しては、17世紀ドイツにおけるネイション概念を浮き彫りにしえる史料の選定を優先しなければならないと考えられる。 コーパスの作成が終了し次第、二つのコーパスの比較検討を行う。この際には、双方のコーパスにおけるネイションという語と共起する(互いに近い文脈に出現する)複数の語を抽出することで、両国のネイション概念の特徴を浮き彫りし、それによって両国の初期的なナショナルな言説の共通項と差異を析出することが可能となる。これを手がかりとしながら、イングランド、ドイツにおける国家形成の度合いとナショナルな言説のあり方の関係性を明らかにできよう。 今後の研究においては、これら二点を軸としながら課題の遂行に努める予定である。本研究の遂行に来年度割きうる研究時間のうち、前者が6割ないしは7割、後者が4割ないしは3割を投入する予定である。
|
Causes of Carryover |
2020年度の研究においては、当初予定していたドイツ関係史料の蒐集と、それに先立って必要とされる予備的研究ができず、それらに充当する予定であった経費が浮く形となった。また、イングランド及びナショナリズム一般関係文献の購入も比較的少なかったため、同じく経費が浮くこととなった。 2021年度の研究計画においては、当該年度使用額が24,108円である。このうち半分をイングランド関係の先行研究の蒐集に、残り半分をドイツ関係の先行研究の蒐集に投入する予定である。
|