2019 Fiscal Year Research-status Report
スペインとイタリアの比較研究に見る連邦制的分権化改革の帰結
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19K13611
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
永田 智成 南山大学, 外国語学部, 准教授 (20734932)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 分権化改革 / 連邦制 / スペイン / イタリア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はスペインとイタリアという二か国の事例を比較検討することで、連邦制的分権化改革の効果を検討している。今年度の研究では、以下の点が明らかになった。 まず、スペインおよびイタリアにおいて、中央から地方へ権限の委譲を主張する地域政党が存在しているにもかかわらず、イタリアの連邦主義的改革はスペインのような非対称な形では生じておらず、画一的であるという点である。 初年度は国政における政党システムに着目し、地域政党がどのように国政に関与し、連邦制的分権化改革を推進したのか考察した。 スペインにおいては、分権化改革をカタルーニャとバスクが主導し、国政において少数与党政権が成立すると、両地域の地域政党が閣外協力を行ない、その見返りとして新たな自治権を獲得した。そのため、どんなに連邦制的分権化改革が進んでも、各自治州が対称的な権限を有するとされる連邦制になるという根本的な解決がなされることはなかったということがわかった。 他方、イタリアの分析では、北部の地域主義を主張してきたレーガに着目して研究を進めた。レーガに関する主要な論点は、従来北部に地盤を置いていた政党が直近の2018年総選挙で全国政党化したことである。レーガの変化を説明する際に党内の力学で説明しようとしている先行研究が多いが、本研究ではレーガの外的な要因、すなわちレーガの競合相手である中道右派の主要政党との関係性からの説明を試みた。その結果、レーガの変化は、その競合相手であるベルルスコーニと彼の政党との競合の中で余儀無くされたものであり、2018年総選挙での転換は劇的なものに見えるが、実際にはレーガの変化はその以前から生じていた、というものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調に研究が進展していると考える理由として、スペインの事例との比較を念頭に置いて進めた結果、イタリアにおける地域政党および連邦主義的改革の特異性を見出すことができたからである。 まず、レーガの特異性が明らかになった。スペインのカタルーニャやバスクの地域政党と比較すると、イタリアのレーガには地域主義的な主張に一貫性がなく、レーガは2000年代から地域政党色が薄くなっていたことがわかった。 第二に、イタリアにおける中央―地方政府関係の特異性である。スペインの場合、中央政府―カタルーニャなどのように中央政府と一地方政府を取り出し、その関係性を分析することが可能であり、そのような研究がなされているが、イタリアの場合、スペインと同様の傾向ではない。レーガは「北部」という緩い地域の枠組みをもって政治的な主張を展開してきたため、レーガが主張するアイデンティティの拠り所・領域が必ずしも明らかではなく、さらには分権化の側面からもイタリアの州の権限にはスペインほどの州ごとの権限の不均等さが見られない。レーガが北部への権限委譲を推進してきたのであれば、北部の州と他の州の権限の不均等が見られても良いはずである。しかしながら現実には、イタリアの連邦主義的改革は全国一律に進められている。 従来の研究では、イタリアは1990年代以降連邦主義的な改革が進められ、連邦国家に近づいてきていると言われているが、実際にはスペインのような地方政府の独自色が見られない実態がある。そのような点から、イタリアは外形的には地方への権限委譲がなされているように見えながら、実質的な権限の執行は変わっていない可能性が考えられるのである。 このように連邦制的分権化改革の帰結に違いが生まれる理由の一つを明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の分析を経て、今後は、イタリアとスペインの分権化が進んだ1996年以降のプローディ・中道左派政権(伊)とアスナール・中道右派政権(西)で分析の対象時期を揃え、両国の連邦主義的改革の継続性の差異に注目する。具体的には、両国の分権化改革の始点から制度面のどのような継続性が見られるのかを明らかにし、両国の制度の継続性の差異が、政治的な帰結の差異に繋がることを示す。 スペインにおいては、1996年に成立したアスナール政権が最も分権化を進めたことがわかっているが、一般に同政権は地域ナショナリスト勢力と対立し、新自由主義的政策を取り入れたと評価される。では、同政権の真の狙いは何だったのか。また、1996年までに地方政府側が求めた分権化改革案をアスナール政権は取り入れられたのか。制度の継続性という観点から、地方政府と中央政府の相互関係に着目して、どのようなやり取りの結果、分権化が大きく前進したのかを明らかにしていく。 イタリアについては、大幅な憲法改正を行い、イタリアの分権化を大きく進めた第一次プローディ政権を扱い、プローディ政権の分権化の目的がどこにあったのかを捉える。そして、プローディ政権以後の政権がどのような点でイタリアの始点から逸脱していったのか、そこにはどのような利益があったのかを解いていく。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主な理由として、当初計画していたイタリアでの実地調査が、スケジュールの都合上、実施できなかったことが挙げられる。
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Research Products
(4 results)