2020 Fiscal Year Research-status Report
スペインとイタリアの比較研究に見る連邦制的分権化改革の帰結
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19K13611
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
永田 智成 南山大学, 外国語学部, 准教授 (20734932)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 分権化改革 / 連邦制 / スペイン / イタリア |
Outline of Annual Research Achievements |
スペインとイタリアという2つの国は、過去数十年間にわたり、中央政府から地方政府への権限の委譲を中心とする連邦制的分権化改革を行なってきた。しかし現在、両国の帰結は異なっているように見える。本研究では、両国の分権化プロセスを比較・検討することで、帰結の違いについて明らかにすることを目的としている。今年度は以下の点が明らかになったと考えている。 まず、スペインはイタリアと比べて分権化改革後発国であったにもかかわらず、スペインの歩みは速かった。1990年代には中央と地方の権限の在り方については概ね固まっていた。逆にイタリアでは、古くから憲法において分権的な体制について言及がなされていたものの、1990年代では中央と地方の権限の在り方が議論の焦点となっていた。 上記に関連して、スペインでは早くから分権化改革の手続が明文化されていないものも含みつつある程度固まった一方、イタリアではそのような慣行が未発達であった。これは両国の政党システムの違いにも依拠していると考えられ、イタリアの場合はより困難な政党間交渉が強いられるということがわかった。 また同じ分権化改革という用語を用いていても、その中身は異なっている可能性がある。スペインでは地方政府の制度的独自性に焦点が当てられる一方、イタリアでは中央政府からの権限の分散に焦点が当てられている。分権化改革という用語は多用されるが、何を目的としたものか、把握することが極めて重要であることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
進捗が遅れている最大の原因は、新型コロナウイルス感染症の大流行により海外出張が叶わず、当初予定していた議会議事録や各種行政文書の閲覧が叶わないためである。今年度においても海外出張が可能となる確率は低いように思われるので、代替的な研究手法の確立が肝要であると考える。 他方、海外出張が叶わないからといって「研究実績の概要」で述べたように、研究が全くできなかったわけではない。新型コロナウイルス感染症の拡大当初は、海外からの書籍の輸入もままならず、国内図書館の閲覧も困難であったことから、研究ペースは停滞したが、秋以降、可能な範囲で研究を続けることが出来た。その結果、「研究実績の概要」で述べたように、いくつかの重要な論点や課題を見つけることができた。 まとめると、1次資料に関する研究は停滞せざるを得なかったが、2次資料による研究では、スペインとイタリアの分権化改革のプロセスの違いを鮮明にすることができており、それなりの成果が出ていると理解している。ゆえに自己評価としては、「(3)やや遅れている」が妥当であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、大方針としては、1次資料による研究を基本的に諦め、代替策として、政治家の回顧録などの出版資料を用いて文書資料の代替とする。状況が許せば、国内の資料館等の訪問・閲覧を行なう予定である。 その上で、まず中央政府による地方政府による介入という観点から、分権化改革を分析することにする。両国における介入に仕方の違いなどがその焦点になると考えられる。介入の仕方によって、分権化改革の方向性やその帰結が異なってくるのではないかと考えている。 次に、これまでの研究成果により、スペインとイタリア両国において、分権化改革の大きな転換点となったのは、1990年代後半であったことが分かっている。この時期は、統一通貨ユーロの初期メンバーになるべく、両国とも邁進していた時期である。ユーロ加入のための改革と分権化改革が時期を同じにしており、無関係ということは考えられない。この2つの分野にまたがった研究は管見の限りごくわずかしかなされていないが、ユーロ加入と分権化改革の関係について考察する。 最後に、研究最終年度ということもあり、他地域・他時期の研究者と共に研究会ないし勉強会を開き、その場で我々の研究成果を披露し、他地域・他時代を扱っている研究者からコメントをもらい、今後の研究のためのフィードバックを得たいと考えている。 以上のような形で、3年間の研究を締めくくりたいと考えている。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた最大の理由は、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行により、海外渡航が著しく制限され、旅費の執行がほとんど不可能であったことがあげられる。今年度についても海外出張ができる可能性は低いと見込んでおり、その代替策として、資料の購入で補おうと考えている。 また国内の状況が許せば、当初計画以上に、国内の資料を活用しようと考えており、緊急事態宣言等が発令されていない状況では、国内資料館に出向き、資料調査を行なおうと考えている。 今年度は最終年度ということもあり、これまでの研究成果について、多分野・他地域の研究者のコメントも得たいと考えている。具体的には、少人数の研究会を開催し、そこでの議論をもとに今後の研究の方向性を見定めたいと考えている。
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