2020 Fiscal Year Research-status Report
気候変動政策への中国戦略的パートナーシップの関与:ブラジルとメキシコの比較分析
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19K13632
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
舛方 周一郎 東京外国語大学, 世界言語社会教育センター, 講師 (40734538)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 気候変動対策 / 多国間交渉 / 持続可能な開発 / 戦略的パートナーシップ / ラテンアメリカ / 再生可能エネルギー / 中国 / 南南協力 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究2年目の令和3年度は、以下の文献整理と論文執筆を通じて、研究の成果を示すことができた。 (1)日本で入手可能な中国・ラテンアメリカ関係の文献を渉猟した。2000年代以降、中国-ラテンアメリカ関係の本は、日本語文献のほかにも、英語・スペイン語・ポルトガル語・中国語を含む外国語文献で出版されている。その中でも本年は中国・ブラジル関係の文献サーベイを中心に行った。その結果、一見すれば支配・従属の関係としみなされる中国・ブラジル関係の中にも、ブラジル外交の戦略的な自律性を確認することができた。 (2)日本で入手可能な気候変動対策における南南協力に関係する文献を渉猟した。この作業で気候変動条約締約国会議(COP)や持続可能な開発(SDGs)をめぐる中国・ブラジルの交渉過程と、二か国間の相互関係に関する近年の動向を整理した。両国の間での経済的な相互利益だけでなく、新興大国として持続可能な開発目標に貢献するという規範的な役割が、二カ国の戦略的パートナーシップの深化にインセンティブを与えていることを確認できた。 (3)上記の調査を通じて、新興大国であるブラジルはラテンアメリカの中でも特異な役割であり、比較対象としては、メキシコなどの他のラテンアメリカ諸国よりも、インドや南アフリカといった他の新興大国のほうが類似性が高いことが確認できた。
以上3点に加えて、本年度は、ブラジル日本研究国際会議(ブラジリア大学主催・オンライン)において招待講演者を務め、日本とブラジルの気候変動分野での協力の可能性についても報告した。この点は、本研究とも直結する研究実績の一つである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
進捗状況はおおむね順調に進展している。まず計画当初は、7月~8月の夏期休暇期間と2月~3月の春期休暇期間において、メキシコとブラジルにおいて、関係者への聞き取りや、公文書の収集といった本調査を実施する予定であった。しかし新型コロナウイルスの感染拡大により、渡航断念を余儀なくされた。その代わり、日本国内でできる文献調査と論文の執筆を行った。この成果は、日本国際政治学会で報告した後で、学会誌に投稿して現在のところ査読審査中である。
さらに、米国バイデン政権の誕生、気候変動・エネルギー対策への世界的な関心の高まりといった政治社会情勢の変化により、日本国外でも、戦略的パートナーシップを介した米伯・中伯・日伯関係に注目が集まった。そのため、本研究に付随するテーマにおいて、学会報告や論稿・書籍(分担執筆)を公表する機会を得た。くわえて、ブラジリア大学のCristina Yumie Inoue准教授との国際共同研究の実施や、既に原稿を提出して年内中に出版する予定の書籍も2冊ある。
このように本年度は予期していない事態に巻き込まれることが多かった。それでも本年度は、学会報告4件(国際学会含む)、論稿3本(査読論文含む)、担当執筆の書籍2冊という成果となった。この事実は、本研究の進捗には少なからぬ進展があったことを示す証左といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、研究3年目も予定していたメキシコとブラジルでの在外調査(本調査)の可能性は低いままである。そのため、今後の研究の推進方針には改めて見直しが必要となっている。引き続き、当該地域におけるワクチン接種などにより、情勢が安定した場合には、調査を実施できるように情勢を注視していく。ただし、在外調査が困難な場合には、本研究計画を来年度まで延長することを検討している。 特に研究計画3年目となる令和4年度は、日本でできる資料収集と論文の執筆に取り組む。また必要に応じて、オンラインを活用して当地の専門家などへの聞き取りを行う。
研究の進捗状況に応じて、戦略的パートナーシップを介したメキシコの気候変動政策(とりわけ再生可能エネルギー政策)への中国の関与だけでなく、気候変動分野におけるブラジル・インド関係についても、学会などで口頭発表する。その後に発表時にうけたコメントを生かして、論文を改訂して研究雑誌に投稿する。
さらに本研究とも密接に関係するブラジル気候変動政策に関する研究課題が、科研費研究成果公開促進費(学術図書)の出版助成に内定したため、書籍出版(2022年2月予定)にむけて鋭意準備を進めていく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、当初の計画で想定していたメキシコ・コロンビアでの夏期・春期の在外調査を断念したため、本年度分の差引額は。翌年度分に繰り越されることになった。ただし翌年度は、ワクチン接種の普及などで研究対象地の社会情勢が改善することで、本研究が計画していた在外調査の可能性も残されている。そのため翌年度分として請求した助成金も、そのまま渡航費・宿泊費・日当として繰り越しするのがよいと判断した。
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