2019 Fiscal Year Research-status Report
リスクプレミアムの推定におけるバイアス補正とモデル選択に関する理論と応用
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19K13672
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Research Institution | Tokyo Keizai University |
Principal Investigator |
木下 亮 東京経済大学, 経営学部, 准教授 (10732323)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 計量ファイナンス / 計量経済学 |
Outline of Annual Research Achievements |
市場における金融資産の価格が投資家の合理的行動によって形成されているのであれば、高い期待リターンには何らかのリスクが伴う。金融資産の価格は投資家の予想とリスク選好を反映して決定されるため、株価等のデータを用いてリスクプレミアムを推定することが可能である。上記のテーマに対して、多くの先行研究では、漸近理論やシミュレーションを用いて統計的推測を行っている。しかし、漸近理論における分布が小標本の場合でも近似的に妥当なのかどうかを検証した研究は少ない。また、シミュレーションにおける分析では、分析ごとに大量の計算が必要であり、漸近理論と差異が生じた場合の原因の特定が困難である。 本研究では、漸近展開によって従来の漸近理論よりも高次のオーダーの項の性質を検証している。平成31年度は、小標本におけるリスクプレミアムの2段階推定量に関する理論研究に取り組んだ。先行研究では、従来の中心極限定理では考慮されていないバイアスが、無視できない大きさとなる場合があることが指摘されていた。本研究では、先行研究とは異なる仮定のもとで漸近展開によって推定量のバイアスを導出した。また、それを応用してバイアスを修正した推定量を提案した。更に、提案された推定量の性質が、漸近展開による理論結果と整合的であるかどうかをモンテカルロシミュレーションによって調査した。概ね想定通りの結果を確認できているが、モデルの数値設定によっては理論値と大きく異なる結果を得る場合があった。また、実データに対する応用を考える際に、従来の簡便な2段階推定方法と比較して、計算の手間を増加させてまで修正推定量の導入を推奨するほどの改善は見られない。どのような場合に修正推定量の有用性が高まるかを、理論的及び数値的に検証していく必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では、平成31年度末の段階で、リスクプレミアムの2段階推定における高次のオーダーのバイアスに関する研究を論文にまとめる予定であったが、研究会での報告を終えた段階で進捗が止まっている。概ね理論とシミュレーションの結果の間に整合性を得ているが、モデルの設定が複雑になった場合に誤差が生じる場合がある。この場合に、理論研究に誤りがあるのか、必然的に生じる近似誤差であるのか、見分けがつかない。漸近展開を用いた理論の検証では、必ず立ちはだかる問題ではあるが、想定以上に数式が複雑となったため、予定以上に時間がかかっている。 論文の執筆という意味では、研究はやや遅れていると言えるが、研究を進めるための下地は整ってきている。アセットプライシングモデルや、漸近展開を中心とした統計理論に関する情報収集は十分に行うことができた。また、基本的な部分に関しては理論の導出とコンピュータプログラムの作成が完了している。当初の計画では、2年目以降に取り組む予定であったテーマであるアセットプライシングモデルに対するモデル選択基準に関しても、先行研究の調査は概ね完了している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も現在の方針を継続し、当面の間はリスクプレミアムの2段階推定に関する理論研究に取り組む。数式展開が複雑な上に、上記で述べた難しさから当初の想定よりも時間がかかると考えられる。また、本研究の応用を想定している先行研究のモデルでは、本研究の分析よりも手前の段階の理論結果に対するシミュレーションを行った論文が少ない。したがって、本研究と先行研究の貢献を区別するためのシミュレーションをデザインする必要があり、こちらにも当初の計画にない時間を取られる可能性がある。 しかしながら、本研究の方針と課題は明確であり、十分な時間が確保できれば成果をあげることが可能だと考えられる。理論研究に区切りがつく度に、理論とシミュレーションの結果を論文にまとめる。また、それらを実証研究に応用して有益な結果を得られた場合には、そちらも論文にまとめる。
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Causes of Carryover |
平成31年度に実証分析とシミュレーションのためのワークステーションを購入する予定であったが、理論研究に対して予定以上に時間を要しており、大規模な計算を必要とする段階に入っていないため、次年度に購入を延期した。理論研究の進捗に応じて、コンピュータに必要なスペックを明確にし、最適なものを購入する予定である。コンピュータでの計算過程や結果を保存するためのストレージも同時期に購入する予定である。また、実証研究に必要なデータベースに関しても同様の理由から購入を延期している。有益な実証結果を期待できるものを対象として購入する予定である。
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Research Products
(2 results)