2021 Fiscal Year Research-status Report
リスクプレミアムの推定におけるバイアス補正とモデル選択に関する理論と応用
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19K13672
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Research Institution | Tokyo Keizai University |
Principal Investigator |
木下 亮 東京経済大学, 経営学部, 准教授 (10732323)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 計量ファイナンス / 計量経済学 / 資産価格理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
株価収益率は、景気等の市場全体の変動を反映する共通変動と、個別企業ごとの要因によって変動する。個別企業ごとの要因は分散投資によって排除できるが、共通変動の影響を排除することはできない。排除できないリスクを負担する投資家にはリスクプレミアムがもたらされることになる。 本研究の目的は、このリスクプレミアムを適切に推定することである。共通変動に対する感応度の高い株式ほど高リスクであるが、感応度はデータから推定されるものである。リスクプレミアムは感応度の関数であるから、感応度の推定誤差の影響で推定量にバイアスを持つ。先行研究では、バイアスを除去するために個別株データではなく、時価総額や簿価時価比率の順位等の感応度の代理変数を利用したソートポートフォリオを用いて分析が行われてきたが、その性質は明らかではなかった。 今年度の本研究では、ソートポートフォリオを用いる場合の推定量の統計的性質について、シミュレーションで調査を行った。統計学における小標本バイアスの近似公式と整合的な結果を得ることができ、現実的な標本サイズではバイアスを除去しきれない場合があることを確認した。また、自明ではあるが、代理変数と感応度の相関が弱ければソートポートフォリオを用いてもバイアスを減少させることができなかった。更に、国内株式データを用いて時価総額、簿価時価比率、配当利回り、利益株価倍率を用いたソートポートフォリオを構築し、その期待収益率と共通変動に関する分析を行った。近年ではアルファと呼ばれる共通変動調整後の期待収益率が小さくなっていることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究のこれまでの成果によって、リスクプレミアムの推定における小標本バイアスについて統計理論との整合性を確認できたが、その除去については解決法が定まっていない。従来のバイアス修正推定量は、株式間の共通変動への感応度の違いが十分に大きい場合には機能するが、そうでない場合には修正が悪影響を及ぼすこともある。共通変動はポートフォリオの構築によって除去できない変動であるから、いずれのデータを用いた場合でも推定値は同一か、少なくとも近い値となるはずである。しかし、実データを用いて推定を行うと、個別株を用いた場合、ソートポートフォリオを用いた場合、バイアス修正推定量を用いる場合、用いない場合で推定結果が異なっており、リスクプレミアムの明確な推定値を得ることができない状況である。 この原因には、モデルの特定化の誤りが考えられる。ソートポートフォリオでは、共分散の変化を間接的に捉えることができる。時価総額や簿価時価比率などの変数は将来の共分散の代理変数であり、それを利用してポートフォリオを組んでいるのである。一方で、個別株データを用いる場合には、共分散の変化を捉えることができない。つまり、推定結果のデータ間での不一致は、共分散が時間を通じて変化していることを意味している。これを解決するためには、ソートポートフォリオと個別株を統一されたフレームワークで分析して比較を行う必要がある。条件付きファクターモデルが一つの方法であるが、実証分析の前に対応する小標本バイアスの性質について調査を行う必要がある。 上記の状況を考慮して、進捗状況をやや遅れていると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度以降には、実証分析における推定結果を踏まえてモデルの改良を目指す。リスクプレミアムの推定において、個別株データを用いた場合とソートポートフォリオを用いた場合で結果が大きく異なることが知られており、本研究でも同様の傾向が確認されている。小標本バイアスによって推定結果の違いを説明できることが期待されたが、これまでの成果ではそのような結果を得ることはできていない。これは個別株の共分散が時間を通じて変化しており、かつそれが財務諸表と相関を持っていることを示している。共分散の変化を捉えるようなモデルには条件付きファクターモデルがあるが、この場合のバイアス修正推定量の振る舞いは明らかではない。また、資産価格理論を基にしたファクターは、統計学の主成分分析によるファクターとも整合的でなければならない。 今後の研究では、条件付きファクターモデルにおける推定量の性質を調査しながら、実証分析に適用する。この方法によってリスクプレミアムの推定値がデータの構成に依存しなくなることが期待される。しかし、分散不均一性や自己相関等を考慮しなければならない可能性もある。推定量の性質に関する研究と実証研究を並行して進めながら、それぞれを論文にまとめていく。十分に整合性の取れるモデルと推定方法の提案が望ましいが、少なくともモデルの改良の指針を得ることを目指す。
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Causes of Carryover |
研究の進捗が遅れているため、学会発表の旅費、論文投稿料、英文校正費の支出が遅れている。また、シミュレーション及び実証分析に用いるコンピュータを予定よりも安価で取得できたため、次年度使用額が生じている。 前者に関しては、研究の進捗に応じて今後の支出が期待される。後者で生じた金額に関しては、必要に応じてコンピュータのメモリの増設等に充てる可能性がある。
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Research Products
(2 results)