2020 Fiscal Year Research-status Report
社会選好とコミュニティのガバナンス形成に関する実験・行動経済学研究
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19K13676
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
芦田 登代 東京大学, 社会科学研究所, 特任研究員 (80724898)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 経済実験 / 社会的選好 / 利他性 / 自然災害 / 心理的貧困の罠 / メンタルヘルス |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、経済実験を実施する予定であったが、新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、延期した。そのため、ベースライン調査や関連データを使って、下記の3つの分析・論文化を主に進め、一部は国際学術誌に投稿した。 (1) 災害への暴露、現在バイアス、心理的貧困の罠についての実証分析:実証研究を行った結果、被災の程度が高いと現在バイアス(目先のことを優先する傾向のこと)が増幅し、それがメンタルへルス悪化につながっていることが伺えた。さらに自然災害と技術的災害の「複合災害」に暴露された福島県のデータでは、メンタルヘルスと現在バイアスとの間の逆の因果関係も観察され、複合災害が「心理的貧困の罠(psychological poverty trap)」を生み出すことが示された。(2) 実社会における向社会性の不安定性:この研究は、日本では人間関係を保つ手段の1つとして、年賀状のやり取りがあることに注目したものである。年賀状の発送枚数を向社会性の指標として、属性別に検証した結果、高齢者では災害暴露後に向社会的行動が低まる一方、若年層ではそれが高まっていた。これらの異なる結果は、向社会的行動を生み出しうる2つの決定要因、すなわち「利他性」と「長期関係における自発的な協調行動」が組み合わさることで説明できると考えられ、また、研究の副産物として、現在バイアスが向社会的行動を阻害することも分かった。この研究は、日本経済学会で報告予定にしており、2021年1月に報告論文を提出した。また、アウトリーチの一環として、社会科学研究所のHPにも公表した。(3)災害保険の役割の検証:地震保険の加入は、災害後の健康にも影響をしているのだろうかというリサーチクエスチョンを基に分析を行った。災害前後の所得や災害前の健康状況を考慮しても、災害保険に入っている人の方がメンタルヘルスの状況が緩和されている傾向が観察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度には経済実験を実施する計画であったが、新型コロナウィルス蔓延のため、実施を見合わせたため。
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Strategy for Future Research Activity |
現状の新型コロナウィルスの蔓延状況を見ていると、経済実験の実施は2021年も見合わせる可能性が高い。研究期間を延長し、2022年度には何らかの方法で実施する方向性で考えていきたい。その間にできることとして、ベースライン調査や関連のデータを使っての論文化を進めていく。
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Causes of Carryover |
コロナウィルス蔓延のため、実験を見合わせた。そのため、その関連の費用(実施費用、旅費や謝礼等)を次年度に繰り越した。
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Research Products
(3 results)