2019 Fiscal Year Research-status Report
企業の始業時刻選択問題を用いた時間的な集積の経済の定量化
Project/Area Number |
19K13679
|
Research Institution | National Graduate Institute for Policy Studies |
Principal Investigator |
森岡 拓郎 政策研究大学院大学, 政策研究科, 講師 (80725507)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 時間的な集積の経済 / 始業時刻 / 企業の意思決定 / 鉄道の混雑 / 負の外部性 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は大都市交通センサスの個票データを用いて、企業の始業時刻等の空間的分布等の把握に努めた。通勤者の勤務する市区で始業時刻を集計し、平均を比較することによりまず次の3点のことが分かった。(1)始業時刻には空間的なばらつきがあり、郊外よりも都心の市区の方が、そして近畿よりも東京の市区の方が、始業時刻が平均で20分程度遅い。(2)工業の割合の高い市区(荒川区、大田区、川崎市、大阪市此花区など)は始業時刻が早く、オフィスが多い市区は始業時刻が遅い(千代田区、新宿区、大阪市中央区など)。(3)都心部では始業時刻のばらつきが小さい。 このような始業時刻の分布となる理由について2つの仮説をたて、検証した。一つ目の仮説は、通勤時間の長い労働者が多いと、睡眠時間の確保を考慮して始業時刻を遅らせるのではないかという仮説である。しかし始業時刻の最も遅い都心部には、東京駅、新宿駅、渋谷駅などのターミナル駅があるので、住まいが遠方でも時間的にはさほどかからずにアクセスできるためである。よって所要時間だけであれば都心の企業が始業時刻を遅くする理由はなく、都心の始業時刻が遅いのは別の理由と考えられる。 二つ目の仮説は、都心部では対面での情報交換等が必要な業種が多く、時間的な集積の経済がはたらくため、総じて9時始業の企業が多いのではないか、という仮説である。こちらの仮説の方が、都心の始業時刻が遅いことを説明してくれそうである。また工業は、工場に労働者が同時に集まる必要があるが、周囲の企業と時間を合わせる必要は無いために、始業時刻の早い企業があるのではないかと推察される。この仮説を、経済センサスなどの追加的なデータを用いながら、今後検証をしていく予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定どおりに進んでいるが、今後はいくつかの点で研究計画から軌道修正を行う予定である。特にコロナウィルス発生によって生じる長期的な変化に対して、本研究からも何かしらの政策的インプリケーションをもたらすことができるよう、研究を修正したいと考えている。 まず本年度は平成27年度の大都市交通センサスの個票データを国土交通省に申請し、首都圏、近畿圏、中京圏の43万人弱の鉄道による通勤者のデータを整理した。このデータをもとに始業時刻の空間的な分布をGISにより描写した。そしてその地図を元に、企業の始業時刻設定に影響を与える要因について特定した。これは今後構築する、企業の始業時刻選択モデルの設定において有用な情報である。今後は研究計画どおり、時間的な集積の経済の決定に重要な要素の特定、企業の始業時刻決定モデルの構築、推定に用いるデータの収集、そして推定を行う。 ただしコロナウィルスにより、本研究の分析対象である始業時刻、時間的集積の経済は大きく影響を受けるため、特にその影響に焦点をあてた分析も行っていきたいと考えている。コロナウィルスの長期的な影響は主に次の3つと考えられる。(1)混雑する電車がリスクとして認識され今までより一層忌避される。(2)再度の感染症の発生に備えて企業が在宅勤務やサテライトオフィス勤務を充実させ、平時でも毎日本社に出社する人数を抑えるようになる。(3)遠隔会議などのツールを実際に使った経験者が大幅に増えたことで、通信上のやりとりで十分伝達可能な場合はわざわざ足を運ばずにすませることが増える。いずれの要素も時間的な集積の経済の重要性を損なわないが、時間的な集積の前提としての空間的な集積の重要性が減る。この影響をモデルのパラメータ等で表すことにより、どのような変化がコロナ後に起こり、適切な政策がどのように変わるのかを分析したいと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
推進方策としては、企業の始業時刻の意思決定の分析と、時間的集積の経済の定量化の分析を分け、先に企業の始業時刻の意思決定に特化して分析することを考えている。始業時刻の意思決定には時間的な集積の経済が影響するのであるが、その部分だけをクローズアップするのではなく、簡易な方法で時間的な集積の経済をモデルに取り込み、始業時刻に盈虚を与える他の要因(労働者が被る混雑や睡眠時間の減少)と併せて分析するつもりである。この分析により、政府が推進している始業時刻の分散がもたらす効果を測定することができる。その後、時間的な集積の経済を詳しく分析したいと考えている。
|
Causes of Carryover |
学会発表とノートパソコン購入を今年度は見送ったが、次年度は実施したいと考えているため、今年度の予算を次年度以降に使う予定である。
|