2020 Fiscal Year Research-status Report
企業の始業時刻選択問題を用いた時間的な集積の経済の定量化
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19K13679
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Research Institution | University of Nagasaki |
Principal Investigator |
森岡 拓郎 長崎県立大学, 地域創造学部, 講師 (80725507)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 時間的集積の経済 / 空間的集積の経済 / 始業時刻 / 企業の利潤最大化 / 大都市交通センサス / コロナ |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度行ったのは、(1)時間的および空間的集積の経済を盛り込んだ始業時刻の意思決定モデルの推定、(2)コロナによる影響のシミュレーション分析、の2点である。 (1)の推定においては、東京圏、関西圏、名古屋圏のそれぞれにおいてモデルを推定した。名古屋圏における始業時刻は、空間的な差異よりも産業間の差異の方が大きく、このためモデルによっては通勤時間と混雑の係数が理論的に整合的な値とならなかった。一方で東京圏と関西圏の推定では、産業間の差異だけでなく空間的な差異も始業時刻に大きな影響を与えており、通勤時間と混雑の係数は整合的な値を得た。 (2)のコロナの影響のシミュレーション分析では、コロナはモデルに3つの変化をもたらすとして分析した。一つは鉄道利用時の混雑の費用の上昇である。鉄道混雑が通勤者にもたらす費用は、コロナ以前は不快感だけであったが、コロナ蔓延中はコロナ感染確率を上昇させる費用および通勤しない者(例えば通勤者の家族)のコロナ感染確率上昇という外部費用をもたらす。これをパラメータの変化などによってモデルに取り込んだ。二つ目は、混雑の費用が大きく上昇する企業で一部の社員を在宅勤務にする点(通勤時間と混雑の費用が0となる)である。これは同時にフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションを阻害するため、生産性を大きく減少させる。三つ目は、企業間の取引において空間的集積の経済の価値が減ることである。コロナにより、企業は企業間のコミュニケーション手段として遠隔ツールの活用を増やしており、これは空間的な集積の経済の価値を下げることにつながっている。これらのコロナの影響を盛り込むと、時間的な集積の経済は失われてはいないものの、その副次的な産物としての混雑や空間集積立地は大きく失われるという結果を得つつあり、分析を続けている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
基本的には計画通りに進んでいるが、コロナの影響のシミュレーションを分析に加えたことで、研究に厚みが増した分、時間もかかっているという状況である。 今後モデルを用いて、企業の立地および始業時刻の選択、通勤者の居住地選択なども行い、これにより企業の空間的な集積がどのように変わるか、始業時刻がどのように変わるか、混雑にどのような影響があるか、などを分析する予定である。ただ大きな問題点として、シミュレーションがどの程度現実を反映できているのか、ということが問題となる。例えば在宅勤務が増える場合、混雑と通勤時間を考慮する必要がなくなるので、都心の企業はそれまでの遅い始業時刻を早めることとなる。しかし実際には在宅勤務ではコアタイムを設定してその時間帯に会議を行う、事前に取引先との遠隔会議の時間を約束しておく、などの方法により勤務時間は社員に任されている会社もあり、フレックスタイムに近い働き方が増えている。この場合、始業時刻の分析自体があまり意味を持たなくなる。ただ一方では、3度目の緊急事態宣言では企業は在宅勤務をあまり増やしておらず、これは翻って時間的および空間的集積の経済が重要であり、多少混雑の費用が上昇しても通勤させることによる在宅勤務と比べた生産性の上昇が大きいことを示している。これらの点を総合的に勘案して、今後はより現実的なシミュレーションを行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の内容と関連するが、やはり研究は他者の意見をフェイス・トゥ・フェイスで聞くことにより深化できる(本研究ではこれを生産性の上昇ととらえている)。この点を私も研究する上で実感しているところである。遠隔でも意見を聞くことは可能であるが、なかなか深いところまで話あうのは難しい。昨年、私は長崎県から一歩も外に出なかったため、意見交換はもっぱら一昨年まで勤務していた東京近辺の研究者との遠隔でのものに終始していた。しかし研究に厚みを持たせるために今後は、もちろんコロナの状況を見ながらではあるが、できる限り私が勤務する長崎近辺の研究者(福岡県など)と直接会って意見交換をする場を設け、分析を深めたい。同時にこの研究は東京をはじめとする三大都市圏を想定していたが、福岡などの地方中枢都市についても分析対象としたいと考えている。一方で東京の研究者との遠隔での情報交換は続けるつもりである。長崎に住んでいると東京の通勤状況、街での混雑、その対策などが実感できないため、話を聞く必要があるためである。
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Causes of Carryover |
今年度はコロナの影響もあり、長崎県から全く出ずに、もっぱら遠隔で研究者と意見交換を行った。このため旅費が0で済んだ。しかし遠隔での情報交換では、多様な情報を交換することはできなかったという実感があり、次年度は対面での意見交換を増やしたいと考えている。コロナについては次年度後半はワクチン接種の効果により減ると見込まれるため、旅費を使って国内および海外の研究者と会う時間を増やしたいと考えている。このために今年度余った財源を用いたい。
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