2022 Fiscal Year Research-status Report
企業の始業時刻選択問題を用いた時間的な集積の経済の定量化
Project/Area Number |
19K13679
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Research Institution | University of Nagasaki |
Principal Investigator |
森岡 拓郎 長崎県立大学, 地域創造学部, 講師 (80725507)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 始業時刻 / 企業の利潤最大化 / 時間的集積の経済 / 鉄道混雑 / 空間的集積の経済 / 離散選択モデル / 大都市交通センサス / 企業間取引 |
Outline of Annual Research Achievements |
企業が始業時刻を決める上で何を考慮しているかを知るために、2015年の大都市交通センサスの個票53万人分のデータを用いて、始業時刻の空間分布を確認した。そこから分かることは次の4つのことであった。(1)企業は従業員に早起きを強いることのないように始業時刻を決めている。(2)第二次産業の企業は始業が早い。(3)企業が通勤混雑を考慮して始業時刻を決めているかは定かではない。(4)大企業は地理的に近くに立地する企業と同じ始業時刻を選ぶ場合が多い。 次にこれらの事実を反映したモデルを構築した。具体的には本研究では企業は利潤関数を最大にするように始業時刻を選んでいると仮定し、その利潤関数が(1)通勤所要時間が長い従業員を抱える企業は始業時刻を早くすることで下がり、(2)産業の種別によって始業時刻を早くするか遅くするかしたときの増え方が変わり、(3)始業時刻に間に合うように通勤すると酷い混雑に合うのであれば下がる可能性があり、(4)周辺の企業と差の少ない始業時刻にすると上がる可能性がる、と定式化している。 更にモデルをデータと合う形にする必要がある。大都市交通センサスは勤めている会社の業種が分からないため、経済センサスのデータによって補ってやる。すなわち大都市交通センサスのサンプルデータは、経済センサスにあるように地域ごとに変わる業種の割合によって確率的に得たデータと考えるわけである。そして業種ごとの確率を足し合わせてやれば大都市交通センサスのデータを得る確率が計算できるため、最尤法によってパラメータを推定すればよい。このようにモデルを細部まで検討した上で定式化した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現在モデル化、データ収集は終えており、matlabを用いた推定のプログラムを作成しているところである。今後はパラメータの推定作業を行い、推定結果の解釈を行う予定である。プログラムのベースはKenneth Trainがホームページに公開しているmixed logitモデルを推定するプログラムである。たっだ今回の研究では大幅に変更する箇所があり、その変更がまだ終わっていない状況である。 今回の研究で特に興味があるのは、時間的集積の経済が企業間であるのかという点である。多くの企業が始業時刻を定めているため、企業内では時間的集積の経済があるのは明らかである。すなわち企業内の社員が勤務する時間を特定の時間にすることで、なんらかの利潤の増加が期待されるため、わざわざ社員の望む勤務時間を無視して、各社は始業時刻を定めているのである。 一方で企業間の時間的集積の経済があるかはそれほど自明ではない。多くの企業が9時に始業時刻を定めているのは、企業間の時間的集積の経済が存在する証左のように見える。しかし9時という時間がすべての企業にとって望ましい始業時間であるだけの可能性もある。時間的集積の経済の実証はまだなされていないと思われるため、できるだけはやく実証したい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、今までフルモデルの推計にこだわってきたが、まずはシンプルなモデルを推計し、その後徐々にモデルを複雑化していくようにしようと考えている。例えば現状でネックとなっているのが経済センサスのデータを用いた尤度の計算の部分であるが、とりあえず企業の業種を考慮した時間的集積の経済はおいておき、地域内の企業の間の時間的集積の経済だけを推定するという方策が考えられる。業種の情報を使わない推計は大幅に簡素化されるため、推定結果を早い段階で得られる。 ただしこの方法の問題点は、時間的集積の経済が限られた空間的範囲のみで生じることを所与と考えてしまう点である。また先述した通り、地域属性が特定の企業を惹きつけ、それらの企業が独立に特定の始業時刻を好むということはありうるので、時間的集積の経済をアイデンティファイできるのかに不安が残る。 このため最終的にはフルモデルを推定することを目標とする。
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Causes of Carryover |
研究の学会発表を今年度中に行う予定であったが、次年度に行うことになったため。
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