2019 Fiscal Year Research-status Report
地方分権化の進行にともなう新しい景気安定化政策の動学的実証分析
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19K13716
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
羽方 康恵 東京学芸大学, 教育学部, 講師 (60453453)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 景気安定化政策 / 自動安定化装置 / 地方税 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで約10年間の日本経済は緩やかな景気回復期にあり、実質GDP成長率は2016年度で1.3パーセントである。しかし一方で、国・地方合わせた長期債務残高は全く減っておらず2016年度で1073兆円に達する。国・地方合わせた長期債務残高は、今後も増え続ける見込みである。このような逼迫した財政状況の中で、経済変動を自動的に緩和する、自動安定化装置の必要性は、以前に増して高くなっていると考えられる。 しかし、1980年代後半から世界的な流れの中で、実施されてきた税制改革をはじめとする、近年の諸財政改革では、自動安定化装置の視点は見失われている。1980・90年代に取られた税制改革と減税政策により租税の自動安定化機能が低下していることは先行実証分析からも示されている。これは今後景気が回復しても、税収がかつてのように景気浮揚的に増えないことを意味する。また、この間の日本の税制改革は、地方分権化の流れの中で地方税への比重を増すものであった。したがって、景気安定化政策に地方税を取り組む枠組みを提示することが重要課題である。 2019年度に研究実施者は、地方住民税の税支払いによる自動安定化装置の可能性について実証分析を行った。これは地方分権化の時代の新たな景気安定化政策となる可能性があり、次年度以降の分析でさらに考察を深めていく。2019年度の研究は、日本財政学会第76回大会での学会報告により世に広く発表した。同論文は、日本財政学会のホームページで開示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね研究計画に沿い、研究を遂行できている。1980年代後半以降の日本の税制改革は、地方分権化の流れの中で地方税への比重を増すものであった。したがって、景気安定化政策に地方税を取り組む枠組みを提示することが重要課題である。こうした問題意識のもと、2019年度は、地方税の安定化装置としての機能について理論的および実証的分析を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、景気安定化政策における自動安定化装置の働きを、税の効果の波及過程を明示的に取り上げて精緻化すると共に、2019年度の研究内容を精査して論文の完成度を高めていく。税の波及過程は、税の増減が可処分所得の変動を通じて、民間消費・民間投資の変動へ波及して、さらにGDPの増減へ波及するため、このプロセスを計量的に明らかにして、税制改革による税収の変化がこのプロセスに及ぼす影響を分析する。また、税の増減が可処分所得の変動へ波及してさらに消費の増減へ向かうプロセスには、流動性制約の影響が大きく表れるため、人口構造の変化による影響も分析に取り入れていく。
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Causes of Carryover |
2019年度に予定された海外出張が出国予定直前にキャンセルになり、既に年度末を迎えていたために、予定していた予算を2019年度中に使用することができなかった。予算残額は2020年度中に、主に経済学関連図書などの物品費と謝金に使用していく予定である。
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