2020 Fiscal Year Research-status Report
教育国債モデルの確立‐人的資本蓄積を考慮した下での国債に関する動学一般均衡分析
Project/Area Number |
19K13720
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
本山 卓実 富山大学, 学術研究部社会科学系, 講師 (10820342)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 世代重複モデル / 国債の維持可能性 / 人的資本 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では人的資本と国債の蓄積を伴う世代重複モデルを構築し、特に人口動態の変化に着目したものと、確率投票モデルを用いて若年世代と老年世代間にある世代間対立を考慮に入れたモデルについて理論分析を行った。 前者においては家計による子供の出生率決定と若年期から老年期にかけて死亡する確率を導入することで人口動態を内生化したモデルを構築し、それによって移行動学や国際の維持可能性条件にどのような変化がみられるかについて考察を行った。しかし、現在のモデルでは子供の数が(内生的に)一定であるうえ死亡率も一定であるため、家計の子供を持つという動機は確かに定常状態の資本の値に影響を及ぼすが大きな変化はもたらさないことが示された。よって分析結果は得られたが一方で、この結果は既存研究の些細な拡張に過ぎないため、現在は死亡確率まで内生化して新しく理論分析を行っている最中である。 後者の研究では政府が若年世代と老年世代の各期の構成の加重和を最大にするような政策を決定するという設定の下で、政治経済学的な観点から最適な政策について分析を行った。結果的にはどのような政策関数が望ましいかについて解析的な解を得ることが難しいことから数値解析による分析を行った。ただしUchida and Ono (2020 EJPE)においてほとんど同じモチベーションで政策関数を解析的に導出した論文が公表されたため、数値例による結果は得られたが論文やディスカッションペーパーとしては公表していない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
もともとの研究計画書通り(1)人口動態を考慮したうえで国債の維持可能性を考察した研究を行い、また(2)世代間の対立(教育政策を行うか老年世代の厚生を向上させるような政府投資を行うか)を考慮に入れるため投票行動を考慮に入れたモデルの構築・分析の両方を行うことができた。その意味では研究計画通り研究が進んでいるといえる。 一方で、(1)に関しては得られた結果そのままであれば既存研究のマイナーイクステンションであり、このまま研究結果として公表するためにはあまりに政策的含意が少ないと考えており、設定を変更したモデルの分析が必要になってくると考えている。また(2)についても最近内容が重複した論文が刊行されてしまったため、差別化を図るために設定を変更したモデル分析が必要である。よって、追加的に必要な理論分析は多いが一方でその方法については下記の通り方針がたっており、進捗状況を総合的に判断すればおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)人口動態を考慮に入れた分析については、主に死亡確率に焦点を当て家計の健康投資と死亡確率の関数形を(ロジスティック曲線のような)非線形な形にすることで興味深い動学が現れるのではないかと予想される。そのうえで教育投資に加えて(昨今で言えばコロナに対するワクチン頒布のような)政府による公的な健康投資を加えることでより広い政策的含意を含んだモデルが構築できると考えており、今年度では本モデルの構築と分析を行う。 (2)合わせて確率投票を考慮に入れたモデルでは、人的資本の文脈ではすでにUchida and Ono (2020 EJPE)による分析が存在するが、人的資本と同じく成長のエンジンとなり経済成長論の分野でも比較的メジャーである、研究開発投資を含んだモデルを用いて政府のR&D補助金まで考慮に入れてモデルを構築中である。R&Dを含んだ成長モデルで国債の蓄積まで同時に考慮に入れた論文は私の知る限り多くはないため、こちらの研究でも多くの興味深い政策的含意が得られると期待される。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由については以下のとおりである。(1)引き続きコロナ問題により国内外の学会・研究会が遠隔形式となり旅費支出がなくなったため。(2)論文の投稿が行えておらず、そのため英文校正費・投稿料・オフプリント費として計上したその他項目が使用できていないため。 今年度については、最終年度ではあるが特に今取り組んでいる理論研究が済み次第英文校正を行った後積極的に海外誌への投稿を行うため、その他に計上した費用をその際に用いる予定である。また引き続き理論分析のための参考や関連研究の確認などのため物品費として引き続きマクロ経済学関連の図書を購入する予定である。
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