2020 Fiscal Year Research-status Report
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19K13724
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
鈴木 将覚 専修大学, 経済学部, 教授 (10621229)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 法人税の分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は、3本の論文を発表した。まず、「法人税はどこへ向かうのか?」は多国籍企業による所得移転や経済のデジタル化を利用した課税逃れに対して、法人税をどのように改革していくべきかを考察したものである。移転価格操作や負債利子を利用した多国籍企業の所得移転に対して、抜本的な対応策が必要との認識が高まっているが、本論文はその対応策を具体的に取り上げて論じたものである。仕向地主義の法人税や定式配賦方式の法人税によって所得移転の問題を根本的に解決することの必要性を強調した。また、現在急速に脚光を浴びているデジタル課税の問題についても取り上げ、経済のデジタル化への対応が、本研究のテーマの1つである多国籍企業の所得移転への対応と共通するものを持っていることを指摘した。 第2に、「グローバル化・デジタル化時代の税制」は経済のグローバル化・デジタル化によって上記のような問題が生じることを確認した上で、消費税や所得税を含めた包括的な視点で日本が今後どのような税制改革が必要であるかを論じた。仕向地主義課税実現に関する地方消費税の問題点や給付付き税額控除を用いた税の公平性の確保など、法人税の課税ベースの改革が他の税制に及ぼす影響を幅広い視点で検討した。 第3に、「設備投資に対する固定資産税の実証分析」は設備投資に対する固定資産税の影響を主にみたものであるが、同時に設備投資に対する法人税の影響をみたものであり、その点で本研究の問題意識が入っている。法人税は、企業所得に対する実効税率を高める効果がある一方で、企業が直面する不確実性の影響を和らげる効果がある。同論文では、こうした相反する両効果が設備投資に対する法人税の効果を曖昧にするとの理論仮説を立て、それを経済産業省「工業統計」、「経済センサス」のマイクロデータを用いて実証的に確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、大きく分けて「所得移転に関する理論分析」と「法人税の効果に関する実証分析」の2本立てから成っている。「所得移転に関する理論分析」については、令和2年度に多国籍企業の所得移転への対応に加えて、経済のデジタル化への対応を含めた抜本的な法人税改革に関する問題の検討ができたことで、一定の目標を達成したと考えている。デジタル課税については、いま世界的に関心が高い事柄であり、実際の政策的対応についても現在進行形で議論が進んでいることから、今後も考え方を進めて新たな分析につなげていく予定である。「法人税の効果に関する実証分析」については、固定資産税とともに法人税の設備投資に対する実証分析を行うことができたことから、目標とされる結果が得られたと考えている。今後はさらに充実した研究になるように、理論・実証の両面から新たな分析を加えていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
一定の研究成果は出たものの、マイクロデータを用いた実証分析で十分なデータが集まらず、分析に至らなかった部分があったため、それについては分析の方向転換を図ることで研究を進めていきたいと考えている。現在、デジタル課税を含めた法人税の議論が盛んになっており、OECDを中心とした現在進行形の政策論議がある。そのような動きに対して、アカデミックな観点からどのような結論が導けるかを考えていく予定である。
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