2019 Fiscal Year Research-status Report
Term Structure of Credit Spreads and the Macroeconomy in Japan
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19K13745
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Research Institution | Nagoya University of Commerce & Business |
Principal Investigator |
小林 武 名古屋商科大学, 経済学部, 教授 (70751486)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 社債スプレッド / 期間構造 / マクロ経済 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題に関して2019年度の実績は以下の3点が挙げられる。 金利の期間構造モデルの構築に取り組んだ。本モデルはアフィン強度モデルとして社債スプレッドの期間構造に応用できるため、本研究課題の基礎研究に位置づけられる。具体的にはアフィン型の無裁定条件を課した期間構造モデルをベースに、イールドカーブをグローバル因子(「水準」、「傾き」、「曲率」)とローカル因子(「水準」、「傾き」、「曲率」)を同時に推定するモデルを開発した。両因子はともに実データから観測できない潜在変数となるため、未知パラメータを識別できるようにパラメータに制約を課した。また、先進4カ国のイールドカーブデータを用いて状態空間モデルにより未知パラメータを推定した。 2点目は、上述の先進4カ国のイールドカーブを分析対象としたレジームスイッチング期間構造モデルの拡張を行った。具体的には、数学的に取り扱いがしやすいマルコフ連鎖をレジーム転換の確率過程に利用し、状態方程式の平均回帰水準、係数行列、条件付き分散行列が、レジーム変化するモデルを構築した。 上記の2点の研究成果を主要な国内外の経済・ファイナンスの学会で発表した。学会発表では、討論者をはじめ学会参加者から今後の研究に資する有益なコメントを頂戴した。具体的には、大規模なモデルを想定する際のパラメータの同定の問題、状態変数間の相関に関する議論、無裁定価格評価モデルの定式化などである。3点目は、個別銘柄の社債と国債のイールドカーブを推定するプログラムの開発に取り組んだ。具体的には、企業の社債の銘柄の価格に関する時系列データを入力すれば、スプライン法により社債のゼロクーポンイールドカーブを推定できるプログラムを開発した。国債については、1980年からのデータを入手し、長期時系列データに基づくイールドカーブの推定が完了した。社債については、数銘柄のイールドカーブ推定を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現時点において、本研究課題のベースとなる複数の社債銘柄を推定する期間構造モデルの開発に取り組み、未知パラメータの推定を行っている。分析対象である個社別の社債スプレッドの推定に関しては、数銘柄の推定を行った。マクロ経済変数に関しては、鉱工業生産指数や消費者物価指数など主要なデータを入手した。当初の計画では、分析対象とする個別企業の社債イールドカーブおよび国債のイールドカーブの推定を完了した後に、社債スプレッドの期間構造モデルの開発に着手する予定であった。2019年度は、社債スプレッドの期間構造の推定と並行的に期間構造モデルの開発を進めることになった。その理由は、以下の2点が指摘できる。1点目は、研究期間内に課題を遂行するために、上述したモデル開発に伴う技術的な課題を早期に解決する必要性を意識するようになった。こうした課題については、学会発表を通じ、討論者からいただいたコメントなどに取り組むことにより課題の克服に役立てることができた。2点目は、イールドカーブを推定するプログラム開発が完了すれば、入力データを用意するだけで複数企業の社債イールドカーブの推定は効率的に作業を行えると考えた。個社別の社債スプレッドの推定に関しては、当初の想定に比べると十分な銘柄数を推定する時間は確保できなかったものの、期間構造モデルの開発が早期に着手できていることを鑑みれば、研究全体としては、おおむね、順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策は以下の手順で分析を進める。 ①社債のイールドカーブの推定に関して銘柄の拡充を行う。2019年度に開発したプログラムをもとに、個別銘柄の社債価格データを整備し社債イールドカーブの推定に取り組む。 ②その上で、初年度に取り組んだ期間構造モデルをベースに社債のマクロファイナンスモデルを構築する。マクロ経済変数の妥当性についても検討を加える。未知パラメータは、Factor Augmented VARに基づく状態空間モデルにより推定する。当該状態空間モデルは、個別企業の社債スプレッドの期間構造を格付け別に集計したパネルデータを観測値とする観測方程式および期間構造の変動を決める潜在変数(共通要因と個別要因)およびマクロ経済変数を状態変数とする状態方程式からなる。推定結果を用いてインパルス応答関数、分散分解により社債スプレッドの期間構造の共通要因が個別要因に与える影響度や社債スプレッドの共通要因とマクロ経済変数の動学的な相互依存関係を調べる。2019年度の取り組みのなかで、無裁定条件を課したアフィン型の期間構造モデルからリスクプレミアの推定と分解を試みた。2020年度は、社債スプレッドの期間構造からインプライされるデフォルトリスクプレミアムとその分解に取り組む。こうしたリスクプレミアムに関する分析は、市場で観測されるスプレッドと理論スプレッドの乖離として議論される「クレジットスプレッドパズル」の解明やマクロ経済変数の予測への応用など多方面の応用が期待される。なお、未知パラメータ推定方法に際して、パラメータ数が増加し、統計的に有意なパラメータが推定できないことが想定される。その際の対応として、期間構造モデルから社債スプレッドの潜在変数を推定した上で、動的パネルデータ分析の手法を用いてマクロ経済変数との関係を調べるといったと2段階に分ける推定方法も検討していきたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用が生じた理由として以下が挙げられる。 ①個別銘柄の社債と国債のイールドカーブを推定するプログラムの開発を優先したため、入力データとして必要なデータベースの購入が遅延した。②新型コロナウイルス感染拡大により、研究を発表する予定の学会が中止となった。そのため、学会参加のための旅費・学会参加費が未使用となった。使用計画については、以下を予定している。①データベース購入・パネルデータ分析を行うためのソフトウエア・ファイナンス・経済関連書籍の購入を予定している。②銘柄数が多岐にわたるため、研究を効率的に遂行するためにノートパソコンの購入を検討している。③国内外の学会参加のための旅費・学会参加費に充当することを予定している。
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Research Products
(14 results)