2020 Fiscal Year Research-status Report
Term Structure of Credit Spreads and the Macroeconomy in Japan
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19K13745
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Research Institution | Nagoya University of Commerce & Business |
Principal Investigator |
小林 武 名古屋商科大学, 経済学部, 教授 (70751486)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 社債スプレッド / 期間構造 / マクロ経済 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題に関して2020年度の実績は以下の4点が挙げられる。1点目は、2019年度に取り組んだ個別銘柄の社債のイールドカーブを推定するプログラムを用いて、社債のゼロクーポンイールドの推定数を拡充した。2019年に開発したモデルに改良を重ね、銘柄の発行額の情報を加味した未知パラメータ推定手法を考案した。分析の結果、B-Splineモデルが日本の社債市場に適合することが示された。本分析結果を、論文にまとめ、2021年6月に日本ファイナンス学会第29回大会での発表が採択された。2点目は、社債スプレッドの期間構造とマクロ経済の予測可能性に関する分析を行った。具体的な分析手法としては、まず、個別企業ごとに社債スプレッドの期間構造を推定した。状態空間モデルを用いて、本邦個別銘柄の社債スプレッドを基に上記の社債市場に共通ファクター(水準・傾き)を抽出した。その上で、水準および傾きファクターがマクロ経済変数に対して予測力があるかを検証した。分析の結果、社債スプレッドの期間構造の水準よりも傾きファクターが、GDP、物価指数、失業率などのマクロ経済変数の予測に有効であることが示された。当該研究成果を、英語論文にまとめ、海外査読誌に投稿し採択された。3点目は、従来取り組んでいたグローバルファクターモデルを発展させて、社債スプレッド水準が異なる個別銘柄から、共通要因と個別要因に加え、クレジットの質の違いに関する共通要因を推定するモデルを開発した。4点目は、マクロ経済変数について、上述の予測に利用したマクロ経済に加え、企業物価指数、機械受注、消費者信頼感指数、日本工業購買担当者景気指数(PMI)、商品指数、株式ボラティリティ指数などを検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現時点において、本研究課題のベースとなる複数の社債銘柄のゼロクーポンイールドを推定した。推定に用いる社債価格データは、長期時系列データを作成するために、日本証券業協会が算出する店頭売買参考統計値と、非上場債券の時価評価に適した日本経済新聞社含む4社が共同で提供するJSPriceを結合して利用した。社債スプレッドの推定銘柄数を拡充する過程で、様々なイールドカーブモデルを用いて、本邦社債の実データに適合するイールドカーブの推定方法を検討した。さらに、パラメータ推定する際に社債の流動性を考慮した方がモデルのフィッティング精度が向上するために、発行額などの流動性に関するデータを用いた重み付き最適化の手法を検討した。当該アプローチは、当初研究計画には明示的に検討していなかったテーマである。マクロ経済変数に関しては、日米の先行研究を調査し、社債スプレッドと関連性の高い指標を選出した。社債スプレッドの期間構造とマクロ経済の関係については、社債スプレッドの期間構造がマクロ経済変数の予測にどの程度有効かという観点から分析を行った。特に、社債スプレッドの傾き因子の予測可能性が景気予測に有効であることを示すことができた。また、当該業績を論文にまとめることに注力し、海外専門誌に採択された。一方、当初研究計画で予定していた社債スプレッドの期間構造とマクロ経済変数との動学的な相互依存関係の分析や非線形への対応、リスク管理などへの取り組みは、次年度の研究課題となった。 以上の点を総括すると個社別の社債スプレッドの推定に関しては、当初の想定に比べると、上述の通り未着手の研究領域はあるものの、個別社債スプレッドの推定に関して当初より掘り下げた分析を行ったこと、クレジットの質を考慮した期間構造モデルの推定を行えたことを鑑みれば、研究全体としては、おおむね、順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の本研究の推進方策は以下のとおりである。 2019年度および2020年度に取り組んだ金利の期間構造モデルをベースに社債スプレッドのマクロファイナンスモデルを構築する。マクロ経済変数については、2020年度に行った変数候補の調査に基づいて、社債スプレッドの期間構造との関係について調べる。2020年度は、社債スプレッドの期間構造からマクロ経済変数の予測可能性について考察を行ったが2021年度は、社債スプレッドの期間構造とマクロ経済変数の相互依存関係を調べる。具体的には、インパルス応答関数、分散分解により社債スプレッドの期間構造の共通要因が個別要因に与える影響度や社債スプレッドの共通要因とマクロ経済変数の動学的な相互依存関係を調べる。2019年度の取り組みのなかで、無裁定条件を課したアフィン型の期間構造モデルからリスクプレミアの推定と分解を試みた。2021年度は、社債スプレッドの期間構造の情報からデフォルトリスクプレミアムとその分解に取り組む。こうしたリスクプレミアムに関する分析は、本邦の社債スプレッドの期間構造に解明につながる。なお、未知パラメータ推定方法に際してパラメータ数が増加し、統計的に有意なパラメータが推定できないことが想定される。また、個別社債スプレッドの期間構造データは、時系列データの開始時点と終了時点がすべての銘柄で統一していないアンバランスなパネルデータであるなど、パラメータ推定上の困難を伴う。上記の問題点を鑑み、Doshi et al(2006)などで提案されたダイナミック・ファクター・モデルに関する疑似最尤法・2段階推定法・EMアルゴリズムなどを検討する。 さらなる取り組みとして、社債スプレッドの非線形性を鑑み、2019年度に取り組んだレジームスイッチング期間構造モデルを推定する。また、社債ポートフォリオの管理指標などを検討する。
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Causes of Carryover |
データベース、計量分析ソフトウエア、図書、ノートパソコンなどの購入に充当したためほぼ予定通り研究費を使用した。
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Research Products
(11 results)