2020 Fiscal Year Research-status Report
新規開業企業の将来性と金融機関の目利き能力に関する実証分析
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19K13746
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
大鐘 雄太 南山大学, 経済学部, 講師 (70801968)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 起業 / メインバンク / 現金保有 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、以下の2つの分析を行った。
第一は、「日本人の起業を妨げる要因に関する実証分析」である。この分析では、日本人の起業に関する既存の理論的枠組みに、「日本の労働市場の硬直性」という要因を導入し、「フルタイム労働者であることは日本人の起業を妨げるかどうか」を分析することを目的とした。さらに、「知識・能力・経験に対する自信(以下、自信)がある日本人は起業する傾向が強い」という先行研究の知見を踏まえ、「自信がある個人においても、フルタイム労働者であることは起業を妨げるかどうか」についても分析した。分析の結果、(1)日本ではフルタイム労働者がパートタイム労働者よりも起業する確率が低い、(2)この傾向は自信がある個人において顕著である、(3)自信があるフルタイム労働者が起業に消極的な傾向は日本特有である、の3点が観察された。以上の結果は、日本人にとっては自信が起業を促す効果よりも、フルタイム労働者であることが起業を妨げる効果の方が大きいことを示唆している。
第二は、「メインバンクの毀損が企業の現金保有に与える影響に関する実証分析」である。この分析では、2008年の世界的な金融危機に焦点を絞り、当該危機時における企業の現金保有行動に関する理論的示唆について、実証的に分析することを目指した。分析の結果、(1)当該金融危機によるメインバンクの毀損は企業の現金保有を増加させる、(2)この傾向は、①メインバンクへの依存度が高い企業、②メインバンクとのリレーションシップが不安定な企業、において顕著である、(3)メインバンク以外の取引金融機関の毀損が企業の現金保有に与える影響は観察されない、の3点が得られた。以上の結果は、2008年の世界的な金融危機時には、金融危機そのものだけでなく、それに伴うメインバンクの毀損を通じても企業の現金保有の動機が高まったことを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、(1)上記の2つの分析を論文としてまとめること、(2)金融機関の目利き能力を分析するためのアンケートを設計すること、の2点を計画していた。「日本人の起業を妨げる要因に関する実証分析」については、論文の執筆後に投稿した結果、査読付き国際学術雑誌に採択された。また、「メインバンクの毀損が企業の現金保有に与える影響に関する実証分析」についても、執筆・改訂を行い、査読付き国際学術雑誌に投稿できる水準に仕上がっている。さらに、金融機関の目利き能力を分析するためのアンケートについても 、設計を完了させ、次年度に実施する準備を整えている。以上のような理由から、本研究課題は当初の計画以上に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、(1)「メインバンクの毀損が企業の現金保有に与える影響に関する実証分析」のさらなる改善を図る、(2)「非上場企業の資金調達および現金保有の手段に関する実証分析」を行い、論文としてまとめる、(3)金融機関の目利き能力を分析するためのアンケートを実施する、の3点を目標とする。
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Causes of Carryover |
報告を予定していた学会・研究会がすべてオンライン開催になったため、旅費に未使用額が生じた。未使用分は、次年度に使用する予定である。
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Research Products
(6 results)