2021 Fiscal Year Research-status Report
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19K13752
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
王 慧子 東北大学, 経済学研究科, 博士研究員 (00748965)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 内陸運輸業 / 近代日本物流 / 日本長距離運輸企業 / 中牛馬会社 / 内国通運株式会社 / 近代日本物流企業 / 明治初期地方商品流通 / 近代商取引 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はまず『明治前期における日本の陸運企業と商取引―中牛馬会社を事例として―』を題目とする論文を発表した。1872~1880年代の「小山五左衛門家文書」の「中牛馬会社」の帳簿史料を分析することによって、交通運輸業再編が生み出した物流企業による内陸商品流通市場の特徴、民衆の生活基盤にかかわる商取引の実態を具体的なデータを挙げながら解明した。上信越を拠点とする商取引と流通の特徴、ルートの変化、市場経済化の進行とともに中牛馬会社が取扱う商品荷物の数量と質の変化から当時の流通取引の規模と内容の変化を明らかにする。さらに、中牛馬会社が請負った荷物運送の依頼主=顧客層の実態を明らかにすることにより、当時の内陸市場における商取引の構造とルートの特徴を解明した。 また『明治初期における地方長距離陸運企業の組織と経営―中牛馬会社を事例として―』を題目とする論文を作成して経営史学会に投稿中(修正中)である。明治期の陸運業改革が進められる中で信州を中心として登場した民間陸運業「中牛馬会社」に焦点を当てながら、陸運業が自由営業となる 1879年までの歴史的経緯を辿ってみる。明治政府が主導する陸運業改革を背景として進められた中牛馬会社の創立、その後の内部分裂、陸運会社や内国通運会社との対立的競争の経緯を辿りながら、この間、在来的な運輸手段である中馬稼ぎを改善・組織化し、長距離運送業の担い手として着実に経営を軌道に乗せていくのに成功した中牛馬会社の運送業務とその構造がどのようなものであったのかを明らかにしてみる。 さらに、前年度の作業に引き続き、1872~1879年までの期間を日本近代的長距離陸運業発展の第一段階として設定し、この期間中の全国陸運企業のデータをできる限り調べて、主要な研究対象「中牛馬会社」と「内国通運会社」の一次文書史料を確認しながら、全体の年表とデータ・ベースを作りつづけている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
まず本年度も前年度に引き続きは各地への史料調査は実現ができなかったのである。長野、群馬、新潟、埼玉の各地の郷土史料館、博物館、図書館、文書館へ出張調査をする予定でしたが、コロナウィルスの影響でやむを得ずにキャンセルとなった。この研究を遂行するために、もっとも重要な各地域の陸運業関係資料を調査が出来なくて、陸運業の全体像、内国通運会社の経営実態の研究推進に大きな影響をした。今年度の補助金を調査出張に利用する予定であったが、それが叶わなかった。 次に、本年度はコロナウイルスの関係で国立国会図書館へ行けなった。オンラインで公表している明治期から大正期の産業部門の諸統計データ(「府県統計書」、「勧業年報」、「帝国統計年鑑」、「農商務統計表」など)を整理しながら、陸運企業のデータと合せて分析作業を進みたいが、公表しているデータは限られているので、こちらの作業はやむを得ず一部はとまっている。 さらに、文書史料の入力作業は進んでいるが、荷物運送関係の帳簿数は50冊以上があり、入力できたのは半分未満ぐらい、遅れている。こちらのデータは実証分析の重要なデータになるので、できるだけ詳細的に入力した上で、分析作業を進みたいのである。そして、大量の荷物の「送状」史料があるが、未整理の数が多い。荷主、荷受主、継立会社名、馬士、運賃などの荷物輸送に大事の内容が記録されており、データ・ベースにして本研究が遂行するための重要な一次史料だと考えている。もっと時間をかけて、作業を進みたいと思う。 もう一つ個人的な事情があって、出産と育児は研究活動に大きく影響した。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナウイルスは落ち着くようになって、史料調査出張へ行きたい。研究対象とする内陸長距離輸送網沿線地方の文書史料館、郷土資料館、図書館、博物館などへ調査出張に行って、資料収集を実施する予定である。出張調査へ行って、関係ある資料を写真撮影し、整理して近代内陸運輸業のデジタルアーカイブを構築したい。 引き続きこれまで収集してきた一次文書史料のデータ整理、入力、解読分析作業を進む。具体的には現在整理・分析中の経営史料群(長野県小諸市小山五衛門家文書、長野県長野市中沢與左衛門家文書、長野県岩村田家依田家文書)を用いた研究と新たに取り組む内国通運株式会社などの競合陸運諸企業に関する研究を組み合わせることによって、全国的な陸運企業へとつながっていく第一次大戦期まで陸運業全体の構造と特質、また主要地方の陸運企業と工業生産、市場経済、商品流通の関連を明らかにしたいという方向である。さらに、全国の小運送業者の統計、主要地方の工業生産、商品の移出入、財閥系企業が取扱う商品の流通に着目して、貨物の輸送実態の諸統計データをまとめて、具体的な数字を挙げて検討したい。そして、近代日本陸運業の第二の時期は1880年代~1880年代末頃、鉄道建設熱とともに、従来の長距離継立運送業から長距離運送手段は鉄道を中心とした運送 業へと陸運業界の再編成が行われる時期である。各地方の鉄道駅前に鉄道貨物を取扱う業者が現れ、中牛馬会社は依然として長距離輸送業者として経営を進んだ実態を検討する。鉄道の敷設路線に沿って運ぶ道筋を考えながら、商品の運送筋を新たに作り上げた。また、従来の商人荷物の運送は会社の経営に限界が現れ、1890年代以降製糸業の勃興とともに、中牛馬会社が輸送技術の革新を行い、近代的な会社組織に再編成し、運送した荷物が数量から質への変化の相関関係を明らかにしたい。 以上の焦点にあたって学会報告と論文執筆を行う。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた利用は主として予定した史料出張調査はコロナウイルスの影響で行けなくて旅費を生じなかったからである。次年度の使用計画は旅費を主として利用したい。史料調査は主として長野県、群馬県、新潟県、埼玉県、富山県などの各地の郷土資料館、博物館、文書館、図書館などへ集中的に訪問する予定である。さらに、学会を参加する場合はその旅費にも利用したい。また、関係する文献の購入にも利用したい。
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