2019 Fiscal Year Research-status Report
The Analysis of the Movement of the inter-Indiginous Bank Market after the late 19th Century in China
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19K13753
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
諸田 博昭 山形大学, 人文社会科学部, 講師 (70785089)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 金融市場の安定 / 内部貨幣の創出 / ギルド的規制と市場秩序 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年の実績としては、1.諸田博昭「戦間期中国の銀行券発行における領用の役割」『社会経済史学』第85巻第2号、161-181頁、2019年の掲載がある。また、今年度には、2.鎮目雅人・靍見誠良『信用貨幣の生成と展開-近世から近代の歴史的実証研究-(仮題)』に、諸田博昭「二〇世紀前半期中国における地域的貨幣と信用」を寄稿しており、掲載予定である。 2つの論文の研究対象は異なるが、論文の課題を以上のように設定した研究史的背景は同一である。すなわち、戦間期中国の貨幣・金融の定説的な理解によれば、1930年代以降、国民政府は、各地に割拠していた軍事政権を討伐して統一的な中央政府となり、全国画一的で厳格な貨幣・金融への統制と会計監査を施行すると共に、政府系三行が中央銀行として機能する環境を整備していった。中国の貨幣・金融は、このような国民政府主導の改革によって体系性と信頼性を確立していった、ということである。 上記2つの論文もこうした大枠に異を唱えるものではないが、当時の史料の詳細な調査により、貨幣・金融の法的規制や最後の貸し手の誕生にのみ、この時期の銀行券の普及とその信頼性の確立の理由を求める見解には、一定の留保が必要であると議論した。 第一の論文が特に注目して分析したのは、領用と呼ばれる、この時期の中国に独特な銀行券の代理発行制度において、画一的銀行規制の外にあった短期約束手形が盛んに取り交わされていたことである。これは、政府規制から比較的自由な金融機関の自発的な貨幣創造とその信頼性を担保するための方策によって、20世紀前半の中国における銀行券の普及、そして金融経済の成長が促されていたことを示している。 そして第二の論文では、第一の論文の成果も組み込み、自身のこれまでの研究成果が中国貨幣史・金融史、及び貨幣論全般においてどのような意義があるのかをまとめて議論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
具体的な実証研究の内容は研究計画書に記したが、今一度ここにまとめる。第一に当時中国第一の経済都市であった上海の銭荘が自主的に定めたルールで運営した同業間貸借市場である銭行の金利の推移と他の政治経済的事象の関係を探る。第二に銭行の実態を検討し、資力において外国銀行や中国系資本の近代的銀行といった銭荘を圧倒的に上回る有限責任制の銀行をも取り込んで、銭荘が銭行を上海の標準的金融市場として秩序立って運営することができた理由を検討することである。 第一の課題については、既に手元にある史料から得られたデータによって、銭行で決まった標準的な利子率(銀拆という)については、その変動の安定性を検討しており、基本的には時代を下るごとに利子率は下がり、その変動幅は小さくなっていることを確認している。他の経済統計の収集に関しては、慶應義塾大学三田図書館に所蔵されている『申報』が非常に重要であり、長期休みを利用してデータの入力を進めてきた 第二の課題については、上海市档案館や上海図書館での銭荘の資料収集を進め、その分析を進めている。収集することができたのは、主に銭荘の同業公会である銭業公会の史料である。その中で判明した中で重要と思われることは、第一に、銭荘は自らの経営の安定のために、設立時の政府による認可制に強く反発していたことである。第二に、有力銭荘の出自は、内陸部は有力地主、都市部では外国の商社や銀行の仲介商人である買弁を多く含んでいることが分かった。これらの階層は、支配者層と列強という、民間市場において強力なバックアップともなる勢力との接点を持っていたことになる。銭荘の貨幣創造とその信頼性は、上記の事実とどう関係するか、これから更なる検討をしていく予定である。 以上のように、全体として順調に計画は進み、歴史学の面からも、経済学的観点からも、意義の大きな研究となってきていると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス流行の影響で移動が制限されている環境下では、新たな史料を収集することは難しいので、今後の研究は、既に手元にある史料の読み込みとデータの分析を中心とする予定である。テーマ設定とその解決は、これまでの方向を大きくは変えず、それを更に推し進める形で実施する。また、今回の銭行の研究を含めて、これまでの研究をより広い分析視角から本という形でまとめて出版するために、史料の読み込みとデータ分析と並行して、中国経済史や貨幣史・金融史以外の文献、例えばグローバル経済史や制度派経済学、開発経済学の文献なども広く読み込んでいくこととする。加えて言えば、経済史学界を世界的に見ると、中国経済史や貨幣史・金融史はそれほど広く知られている分野ではないため、これらの分野内で完結した研究ではなく、より広く知られている異なる地域や時代の歴史的事象に対しても示唆的な内容にすることは、査読付き英語雑誌の執筆にも大いに重要になってくると考えている。従って、既にこれら隣接する他分野の文献の読み込みは始めているが、これからも引き続きこの作業にある程度時間を割いていく予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用が生じたのは、年度末に計画していた出張や学会報告が、新型コロナウイルスの流行に伴ってキャンセルになったことが大きな理由としてある。 そのため、今年度はそれほど学会への参加や資料調査に伴う支出は多くないかも知れないが、それでもある程度の額の支出は予想される。第一に、先に述べたように、中国経済史、貨幣史・金融史だけでなく、隣接する分野の文献も読み込んでいくことを予定しているが、この文献の購入のための支出である。特に今年は大学図書館、市立図書館も閉鎖されているので、この支出は今年度の研究計画を実施するために非常に重要なものとなってくる。第二に、統計分析のためのソフトの購入である。現在はエクセルで分析を進めているが、いずれより高度な統計分析のために専用ソフトの購入が必要となってくることが予想されるが、そのための購入資金も必要となってくると思われる。第三に、新型コロナウイルスの流行が今年度中に収束して、資料収集を自由に実施できるようになった時の出張費用である。現時点で予断を許さない者の、日本は比較的新規感染者数は減少傾向にあり、今年度中に資料収集のための出張に自由に行けるようになることも十分にありえると考えている。 以上の3つの用途に研究資金を振り分けて計画を遂行していく予定である。
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