2019 Fiscal Year Research-status Report
前近代日本の長期賃金データの数量的分析,8-19世紀
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19K13755
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
高島 正憲 関西学院大学, 経済学部, 講師 (70816511)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 賃金 / 労働 / 物価 / 経済史 / 生活水準 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目標は,前近代における日本の賃金データの整備と時系列データの推計と整備,それにもとづく前近代日本の賃労働の分析を行うことである。具体的な作業として,(i) 前近代日本の賃金・物価資料を収集して長期のデータベースを整備すること,(ii) 整備された時系列データベースをもとに賃金労働者の生活水準を推計すること,(iii) 観察された結果にもとづき,前近代日本における賃金労働者の生活水準および労働形態を検討すること,以上の3点の作業が掲げられる。 本年度は,これら作業のうち (i) の長期のデータベース編成のための資料収集を中心に進められた。古代については目的の資料のほぼすべてを収集することができた。中世・近世についても,古代ほどまとまってははいないが,試行的研究に必要な量のデータを収集することができた。 (ii) のデータベース編成および (iii) の研究分析についても,現状で入手した資料を利用して, 学会・研究会などで研究報告をした。古代については律令制度の法令資料からの収入推計を,中世については既存のデータベースに新たな資料を追加し,計量的手法を加味した実質賃金推計をそれぞれ実施した。研究発表では,新たなデータと分析結果を提示し,フロア・討論者との議論を通じて研究内容の改善にむけての知見を得ることができた。 また,報告内容については完成したものから学術雑誌に論文投稿した。それらの一部は,査読を経て内外の研究雑誌にて公表された。なお,公表論文のうち1点については,海外研究雑誌における年間最優秀論文賞を受賞した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,もともと長期の時代をカバーすることを目的としているため (i) データベース編成のための資料をどれだけ把握し,収集できるかが鍵となる。そのため,初年度である2019年度は,図書館所蔵資料および刊行資料の収集をおこない,賃金・物価以外にも多岐にわたる情報を集めることを重点的に進めた。また,成果へのフィードバックを得るため,(ii) データベース編成と (iii) それを利用した研究分析も並行して実施した。 時代別にみれば,古代のデータベース編成のための資料は,現状で入手可能な資料のほぼすべてを収集することができた。生活水準の分析については,古代は貨幣以外にも米などによる賃金の支払も多く,また列島全体への貨幣経済が進展してはいなかったため,米換算による収入推計を貴族・律令官人・律令農民について制度資料を用いて推計し,その格差の大きさを確認することができた。 中世については,賃金データベース編成のため,既存の国立歴史民俗博物館の物価・賃金データベースを一部利用したが,すべてを依拠するのではなく,別途収集した資料からデータを追加し,計量的手法による補正を加えた再推計を行い,京都・畿内地域における米価,熟練/非熟練労働者の実質賃金データベースを作成した(2019年度内に研究雑誌に最終原稿を提出し掲載が決定している)。 近世・近代初頭については,資料収集を継続している。 以上,総合すれば「おおむね順調」といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き,資料収集とデータベース拡充が重要と認識している。ただし,初年度は全体として資料収集を重点的に進めたため,次年度(2020年度)ではデータベースの構築作業を充実させる必要がある。 古代については,制度上の格差を推計することはできたが,これは実態を完全に把握しているとは言い難いのも事実である。具体的事例が判明する資料を用いて,制度資料による推計との整合性のチェックをする。また,畿内・平城京では貨幣がある程度浸透していたので,貨幣によって賃金が支払われていた建築労働者についての賃金データベースを作成する。 中世については,計量的手法によって作成した実質賃金データを作成・分析したが,これは当時,経済先進地域であった京都・畿内に限定したものであった。良く知られているように,中世における貨幣の浸透の度合いやそのシステムに地域差が存在するため,今後は他地域の資料収集と分析の充実を目指す。 近世・近代初頭については,引き続き資料収集を中心に進めるが,地域およびその資料数が膨大であるため,それらすべてを本研究プロジェクト単体でカバーすることは現実的でない。近世日本の列島経済の成長については,その地域別差異を確認することができるため,それら特徴をとらえた何らかの地域別サンプルを抽出する方法の検討を,賃金・物価資料の収集作業と並行して実施する。
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Research Products
(18 results)