2019 Fiscal Year Research-status Report
日本の製造業におけるイノベーションと環境業績の関係についての研究
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19K13850
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Research Institution | Shiga University |
Principal Investigator |
北田 真紀 滋賀大学, 経済学部, 准教授 (30824198)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 管理会計 / 無形資産 / イノベーション / 環境業績 / 環境配慮型製品 / 温室効果ガス排出量 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日本の製造業の特徴に着目し、企業のイノベーションと環境業績の関係について、定量的および定性的な分析により明らかにすることである。具体的には、イノベーションを強化することにより、環境問題への取組の成果として環境業績を高めることができるという仮説について、製造業の業種別および企業別に実証分析を行う。その結果を踏まえ、特徴的な企業を対象にインタビュー調査を行うことにより、環境業績を高めるために企業内部で行われているイノベーション創出の実態および環境対策への取組とその成果の評価方法について明らかにすることを目的としている。 本研究では企業における環境配慮型活動に着目している。地球環境問題は喫緊の課題として議論されており、特に近年は海洋プラスチック問題が深刻化し、マイクロプラスチックによる海洋生物への影響が懸念されている。この問題に対し、とくに産業界では、環境技術開発に力を入れ、生分解性プラスチックに代表される新素材の技術開発と製品化に向けたイノベーションが注目されている。 本研究は3年間の期間を予定しており、1年目である2019年度は、製造業全体を対象とした分析にくわえ、温室効果ガス排出量が多い5つの業種に焦点をあて、イノベーションと環境業績の関係について実証的に考察した。5つの業種とは、鉄鋼、化学、窯業、石油、パルプ・紙であり、特に化学および石油業界は、海洋プラスチック問題において、新素材としてのバイオマスプラスチックの開発・生産・製品化という点で成長が注目されている。実証分析において、仮説を支持する結果を得たことにより、海洋プラスチック問題の解決にむけて、本研究において温室効果ガス排出量が多い業種を対象として、イノベーションが環境業績を高めるという関係について検証したことは一定の成果があるといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度は「イノベーションを強化することにより環境業績が高まる」という仮説について、製造業全体を対象とした分析にくわえ、温室効果ガス排出量が多い5つの業種を選定して実証的に考察することができた。業種選定を含め、この成果は「温室効果ガス排出量が多い業種における環境業績についての一考察 ―温室効果ガス排出量および廃棄物等排出量に着目して―」と題する論文としてまとめ、『彦根論叢』第424号に投稿している(2020年7月に公表予定である)。このように製造業における業種の選定については一定の成果がある一方で、実証分析における代理変数の検討が不十分である。とくに、イノベーションの代理変数の作成について、特許件数を用いた検証も予定していたが、既存研究を整理し、代理変数の作成方法を検討するにとどまっている。そのため、実証分析に取り掛かれる状態にまで進められていない。このことから、予定より少し遅れていると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度以降は、2019年度の研究において焦点を当てた、温室効果ガス排出量が多い5つの業種、およびその業種に含まれる企業を対象として、より精緻化した実証分析を行う。分析にあたり、2019年度と同様に「イノベーションを強化することにより環境業績が高まる」という仮説を立てる。イノベーションおよび環境業績の代理変数の作成については、再検討が必要であるため、既存研究の整理から始めたい。2021年度に予定しているインタビュー調査にむけて、2020年度の研究では、分析の対象とする5つの業種の特徴および動向も整理する。 これらの研究過程について、方向性を確認するため、研究会において報告する予定である。報告によって得られたコメントをもとに、分析過程を修正し、最終的に論文にまとめる。
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Causes of Carryover |
2019年度の研究計画において購入予定であったデータベースについて、アカデミック価格が適用されたことにより、予定以上の年数のデータを購入することができた。しかし、実証分析の方向性において、再検討と改善を図る必要があったため、分析用の統計ソフトの購入や学会参加にかかる支出が発生しなかった。以上が繰越額が生じた理由である。 2020年度は実証分析における代理変数の検討と分析内容の精緻化が必要であると考える。そのため、研究の進展に応じて必要となる文献および統計ソフトを購入することを予定している。また、管理会計および環境会計領域における国内学会において、情報収集をするため、その旅費を支出する予定を立てている。
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