2019 Fiscal Year Research-status Report
競争的環境下における企業のイノベーション活動と戦略的情報開示
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19K13851
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
三輪 一統 大阪大学, 経済学研究科, 講師 (00748296)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 会計学 / 財務会計 / ディスクロージャー |
Outline of Annual Research Achievements |
日本企業の国際競争力低下や少子高齢化による労働人口の減少が叫ばれるなか,持続的な経済成長を成し遂げるには,イノベーションの創出を通じた生産性の向上が重要となる.企業のイノベーション活動をめぐっては,関連情報をライバル企業に知られてしまうと,その情報をライバル企業にも利用されてしまい,競争上の不利益を被る可能性があると考えられる.しかし他方で,企業はイノベーション活動に関する情報を積極的に開示していることを指摘している実証研究も存在する.本研究の目的は,ライバル企業との競争が存在する状況下での,イノベーション関連情報を含む企業情報の開示にかかるインセンティブ構造を解明すること,そしてそれを踏まえて,企業のイノベーション活動を促進するような情報開示制度の設計について考察することである. 初年度となる2019年度では,まず,不確実性の存在する数量競争下での,各企業の製品需要に関する情報開示についてのモデル分析に基づく研究の成果が,海外の査読付きジャーナルに掲載された.この論文では,自社の製品需要について各企業が保有する情報の質が内生的に決まるようなセッティングにおいて,その製品需要に関する情報の開示が,全体として,社会厚生にポジティブないしネガティブな影響を与えるのはどのような場合なのか,それぞれの条件について検討している.また,競争的環境下での企業の情報開示行動について,最近の実証研究の動向についてまとめたサーベイを和文雑誌に執筆した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要にも記載したように,本研究課題の成果として,(1) 不確実性の存在する数量競争下での情報開示について,各企業の保有する情報の質が内生的に決まるようなセッティングに拡張したモデル分析の論文が,海外の査読付きジャーナルに掲載され,(2) 競争的環境下での企業の情報開示行動に関する最近の実証研究のサーベイが,和文雑誌に掲載された.加えて,上記のジャーナルに掲載された論文とは別の観点から,製品市場における企業の情報開示と生産活動との関係について考察しようとしている研究が2つ,進行中である.そのうちの1つは理論的な研究で,こちらはモデルの計算がほぼ完了しており,現在,論文の執筆を進めている.もう1つの研究では実験的手法を用いる予定で,現在,実験デザインの詳細について検討している.以上より,本研究課題は,おおむね順調に進展していると判断できる.
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況において記載した,進行中の2つの研究についてまずは取り組みたい.具体的には,執筆を進めている論文を完成させ,学会・研究会等で報告をおこない,ジャーナルへの投稿を目指す.実験的手法を用いる予定の研究については,実験デザインをしっかり固めたうえで,実際に実験を実施してデータを集める段階に進めたい.さらに,それらと同時並行で,企業のイノベーション活動とその関連情報の開示についてより直接的な分析をおこなうために,経済学をはじめとする隣接分野も含めて先行研究を整理し,新たなモデルの構築に取り組む.
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Causes of Carryover |
2020年度以降に,参加者への謝金支払いを伴う経済実験を実施することを予定していることから,初年度はできるだけ節約しようと考えて予算を執行したことと,COVID-19の影響により,予定していた出張が一部キャンセルになったことが,次年度使用額が生じた理由である.この次年度使用額については,経済実験の参加者への謝金支払いと,学会・研究会に参加して現在進行中の研究について発表する機会を得るために必要となる出張旅費として使用することを計画している.
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