2022 Fiscal Year Research-status Report
リスク・期待リターン推定での会計情報の有用性:実現原則や保守主義の影響を踏まえて
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19K13853
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
小野 慎一郎 大分大学, 経済学部, 准教授 (20633762)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | リスク / 期待リターン / 純事業資産利益率(RNOA) / 会計原則 / ファクターモデル / 収益認識 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度には第1に,純事業資産利益率(RNOA)に関する論文を雑誌『企業会計』で公表した。本論文では,期待事業リターンの予測で注目されるRNOAを,(1)販売活動からの売上高コア事業利益率,(2)資産回転率,(3)その他のコア事業利益,(4)非正常項目に分解して実証分析を行った。その結果,(1)~(4)の継時的パターンには違いがあり,(1)~(4)を別々に予測してからそれらを結合することでRNOA予測の正確性を高められることを示す証拠を得た。 第2に,会計原則と期待リターンの関係についての研究を進め,その論文を雑誌『証券アナリストジャーナル』に掲載した。本論文では,会計原則の特徴を生かして構築された新たなファクター(要約損益計算書ファクターと要約貸借対照表ファクター)を提示している。分析の結果,両ファクターが日本市場でうまく機能する一方で、Fama-Frenchの5ファクターモデルは両ファクターのリターンを十分に説明できないことが分かった。これらの結果は,会計原則の影響を明示的に考慮した資産価格モデルの構築が有望であることを示唆している。 第3に,実現原則と親和性が高い近年の収益認識基準に着目し,当該基準に関する海外の実証研究の動向を整理して,その論文を雑誌『産業經理』で公表した。本論文では,(1)米国で近年適用された収益認識基準(ASU 2009-13/14,ASC 606)は,平均的に見れば財務報告の品質や株式市場に好ましい効果を与えたと判断できること,(2)収益認識基準の適用は,会計的効果や株式市場への効果だけでなく,企業や規制主体の行動への実体的効果も生じさせたといえること,(3)基準適用効果は業種や開示行動によって大きく異なること,(4)ASC 606とIFRS 15の規定内容は実質的に同じだが,両基準の適用前後での変化には相違が見られることを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
リスク・期待リターン推定における会計情報の有用性に関する実証研究を行い,それらの内容を雑誌『企業会計』2022年8月号や雑誌『証券アナリストジャーナル』2022年10月号に掲載することができた。また,収益認識基準に関する実証研究のレビューを行い,その内容を雑誌『産業經理』第82巻第4号(2023年1月発行)で公表することもできた。しかし,新型コロナウイルスの流行に伴う新規業務の発生や学会大会・研究会への不参加などにより,研究の進捗に対して悪影響が生じた。その影響もあり,研究開始時に想定していた4つの課題のうち,(3)保守主義による影響度合いが会計変数と期待リターンの関連性に及ぼす効果の分析,(4)四半期財務諸表に基づく営業レバレッジと期待リターンの関連性分析について,論文を完成させることはできなかった。したがって,当初の研究計画からみると,現在までの進捗状況は「(3)やや遅れている」と判断し,補助事業期間延長申請を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
Penman and Zhang [2021, Review of Accounting Studies] やZhang and Zhang [2023, Working Paper] の枠組みに基づき,保守主義による影響度合いが会計変数と期待リターンの関連性に及ぼす効果の分析を行い,論文を完成・公表することを目指す。
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Causes of Carryover |
PC・プリンタ関連用品や資料整理用品などの一部が当初の予定よりも長く使用可能であったため,一部の物品購入を次年度に延期した。また,新型コロナウイルスの影響を考慮し,学会大会や研究会への参加を取りやめる事態が生じた。これらの物品購入や研究会参加などは,関連する研究の進捗に合わせて,2023年度に行う予定である。そこで,補助事業期間延長申請を行い,助成金の一部を2023年度へ繰り越した。 2023年度へ繰り越した金額は,PC・プリンタ関連用品や資料整理用品の購入などによる物品費や,学会大会や研究会に参加するための旅費として使用する予定である。
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