2023 Fiscal Year Research-status Report
リスク・期待リターン推定での会計情報の有用性:実現原則や保守主義の影響を踏まえて
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19K13853
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Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
小野 慎一郎 東北学院大学, 経営学部, 教授 (20633762)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | リスク / 期待リターン / 純事業資産利益率(RNOA) / 会計原則 / 組替財務諸表 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度には,企業ライフサイクルの識別方法を改善するための新しいアプローチを提案・検証し,その内容を日本経済会計学会第4回秋季大会で報告した。 近年の会計研究では,キャッシュ・フロー計算書(C/S)で表示された営業活動によるキャッシュ・フロー(営業CF),投資活動によるキャッシュ・フロー(投資CF)および財務活動によるキャッシュ・フロー(財務CF)の符号に基づき,企業ライフサイクルを識別したものが散見される。それらの研究は,導入期・成長期・成熟期・淘汰期・衰退期という5つのステージに企業を分類し,ステージ別にリスクや期待リターンの推定などを行うことが有効である可能性を指摘している。 それに対し本研究では,営業・投資・財務CFに加えて,事業CF(いわゆるフリー・キャッシュフロー)の符号に着目し,企業ライフサイクルを8ステージに分類することを提案した。当期財務指標の記述統計量(ステージ内(間)標準偏差など)や,将来の純事業資産利益率(RNOA)の平均回帰傾向を見ると,本研究の8分類は,従来の5分類では捉えきれなかった企業の異質性をうまく捕捉していると考えられる。 さらに本研究は,事業活動と金融活動を区別するという観点から,貸借対照表(B/S),損益計算書(P/L)およびC/Sの組替を行い,組替B/Sと組替P/Lから事業CFの金額や符号を把握した後で,事業CFと組替C/Sから営業・投資・財務CFの符号を把握するというアプローチを提示した。そして,このアプローチで識別した8ステージ別に,将来RNOAの予測を行うことが有望である可能性を示唆する証拠を得ている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
企業ライフサイクルのステージ別にリスク・期待リターンの推定を行う可能性を考慮し,企業ライフサイクルの識別方法を改善するための研究を進め,その内容を日本経済会計学会第4回秋季大会で報告することができた。しかし,研究代表者の所属研究機関変更に伴う新規業務の発生などにより,研究の進捗に対して負の影響が生じた。その影響もあり,研究開始時に想定していた4つの課題のうち,(3)保守主義による影響度合いが会計変数と期待リターンの関連性に及ぼす効果の分析,(4)四半期財務諸表に基づく営業レバレッジと期待リターンの関連性分析について,論文を完成させることはできなかった。したがって,当初の研究計画からみると,現在までの進捗状況は「(3)やや遅れている」と判断し,補助事業期間の再延長申請を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
企業ライフサイクルの識別に関する研究を修正して雑誌に投稿することを目指すとともに,Zhang and Zhang [2023, Working Paper] などの枠組みに基づき,保守主義による影響度合いが会計変数と期待リターンの関連性に及ぼす効果の分析を行い,論文を完成・公表することを目指す。
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Causes of Carryover |
PC・プリンタ関連用品や資料整理用品などの一部が当初の予定よりも長く使用可能であったため,一部の物品購入を次年度に延期した。また,統計解析ソフト(Stata)を永続ライセンスからサブスクリプション型1年ライセンスに切り替えたため,1年ごとに更新費用が発生することとなった。これらの物品購入やライセンス更新などは,関連する研究の進捗に合わせて,2024年度に行う予定である。そこで,補助事業期間の再延長申請を行い,助成金の一部を2024年度へ繰り越した。 2024年度へ繰り越した金額は,PC・プリンタ関連用品や資料整理用品の購入等による物品費や,統計解析ソフト(Stata)のライセンス更新費用などとして使用する予定である。
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