2020 Fiscal Year Research-status Report
財務情報と非財務情報の構造と因果関係分析に基づく情報開示理論の拡張
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19K13860
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
本川 勝啓 学習院大学, 経済学部, 教授 (90780122)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 非財務情報開示 / マテリアリティ / 統合報告 / サステイナビリティ報告 |
Outline of Annual Research Achievements |
非財務情報開示における「マテリアリティ」の概念が,主要なガイドラインや基準を設定する機関によって相違する内容と,その原因についての歴史的経緯を先行研究や公表文書を対象にナラティブ・レビューを行った。レビュー結果から,「統合報告」とサステイナビリティ報告は,それぞれ資本市場の論理と利害関係者の論理に基づいていることが「マテリアリティ」概念の違いを生じさせていることを関連する組織・人物・文書を明確にしながらひもといた。根底にある論理が異なる主な原因として,基準設定主体を運営する機関を構成するメンバーが代表する組織,団体,地理的要因のバランスにあることを両論理の観点から考察した。さらに,レビュー内容を踏まえて,混在していた異なる論理の前提を分けて,将来の研究や開示実務についての重要な課題を提示した。 本研究の貢献は,ナラティブ・レビューの枠組みから以下のように説明できる。一般的に,このアプローチを採用した場合に①理論モデルの構築・拡張すること,②複雑で議論の余地のある問題についての様々な観点を特定したり,説明したり,提供すること,③実務家がベストプラクティスを推進するための情報を提供すること,④新しい重要な問題についての新たな観点を提示することの4つの潜在的な貢献があると言われる。「マテリアリティ」の概念とその変遷について2020年までの歴史的経緯を追い,異なる論理に基づく観点を特定し,説明を行ったことで,②の貢献がある。さらに,異なる論理に基づく研究や開示実務を整理しながら,今後の研究や実務の方針を検討したことで,どのガイドラインや基準を採用するかの意思決定や,採用後にどのように「マテリアリティ」についての判断を実施や開示するのかについての情報を提供したことで,③への貢献がある。①や④の点での貢献は,新規性という面で限界があるが,今後の研究課題としたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
財務情報と非財務情報開示の構造や因果関係を分析する上で,非財務情報開示に重要な影響を与える「マテリアリティ」概念の考察を実施できたことは非常に有益な進捗であったと認識している。 並行して財務情報と非財務情報の構造に関するデータ分析も進めているが,「マテリアリティ」概念をどのように分析モデルに組み込んでいくかを検討している段階である。この進捗状況については当初予定したスケジュールとは異なるが,分析モデルに重要な要素を組み込む構想を思いつけたことは貴重な前進であるといえる。 理論の拡張という目的に基づく評価を行うと,おおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
企業と地方公共団体の財務情報と非財務情報開示の構造や因果関係を利害関係者の意思決定への影響を分析しながら研究を推進していく予定である。 企業の統合報告に関する実証研究では,現状は列挙されている開示項目の価値創造プロセスにおける位置づけを特定し,開示項目を構造化してより一般化された価値創造プロセスを明らかにすることを検討していく。 地方公共団体の財務情報と非財務情報開示については,予算設定者の意思決定への影響を考察しながら,これらの情報をどのように効果的かつ効率的な資源配分に役立てていくのかについて考察をすすめており,共著での学会報告や学術論文の執筆に取り組んでいく。
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Causes of Carryover |
データ購入,論文等の英文校正、海外学会への参加に伴う旅費にあてることを計画している。
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Research Products
(1 results)